『忠臣蔵』「六段目」与市兵衛内勘平腹切の場2022/11/28 07:05

 『仮名手本忠臣蔵』「六段目」与市兵衛内勘平腹切の場。 与市兵衛の家では、主が帰って来ないので、女房のおかや(中村梅花)と娘のおかる(市川笑也)が心配している。 もう祇園の一文字屋のお才(市村萬次郎)と、判人(はんにん)の源六(中村松江)(判人は、落語で女衒(ぜげん)という女を遊女に売る業者)が、おかるを迎えに来ている。 母娘は、与市兵衛が帰るまで待ってほしいと頼むが、待ち切れない源六が無理やり駕籠に乗せる。  そこへ勘平(中村芝翫)が戻ってきて、様子が分からないまま、おかるを家に連れ帰る。 雨に濡れた勘平が着替えると、先ほどの縞の財布が落ちる。 おかやが拾うと、勘平は慌てて取り上げた。 おかるが連れて行かれそうになった事情をおかやが話すと、勘平は、源六におかるは渡せないと言う。 お才は、勘平に腹を立てる源六をたしなめ、与市兵衛は前金の五十両をお才の貸した縞の財布に入れて祇園町を後にしたと、同じ財布を見せて話す。 煙草を喫う振りをしながら、懐の財布とお才の財布を見比べた勘平は、撃ち殺したのは与市兵衛だったかと狼狽する。 そして、昨夜、与市兵衛に会ったと、その場を言い繕って、おかるを安堵させる。 お才と源六は、おかるを連れて行く。 おかやはどこで与市兵衛と会ったのかと尋ねるが、勘平は言葉を濁す。

 そこへ漁師たちが、与市兵衛の亡骸(なきがら)を運んで来た。 おかやは突然のことに取り乱しながらも、先ほど目にした財布を勘平から奪い、血の付いていることを証拠に親殺しと責め立てた。

 その時、千崎弥五郎(中村歌昇)に案内されて塩冶家の諸士頭・原郷右衛門(中村歌六)が訪ねて来る。 郷右衛門は、主君に不忠を働いた勘平の金は受け取れない、という大星由良之助の言葉を伝え、勘平が弥五郎に渡した金を返す。 するとおかやは、その金は舅を殺して奪ったものだと訴える。 二人は驚き、郷右衛門は亡君への恥辱だと勘平を罵る。 その場を立ち去ろうとした二人を押し留めて、勘平は腹に刀を突き立てた。 そして、昨晩の一部始終を語り、全ては主君の大事の時に駆け落ちし、「色にふけったばっかりに」の天罰だと言いながら頬に血をつけて、無念がる。

 この話を聞いた弥五郎が、与市兵衛の死骸を検めると、傷は鉄砲でなく、刀によるものだった。 郷右衛門は、ここに来る途中の道端で、定九郎が鉄砲傷を受けて死んでいたことを思い出す。 与市兵衛を殺したのは、ならず者の定九郎に違いないと二人は確信する。 勘平は、図らずもその敵を討っていたのである。 虫の息の勘平は、疑いが晴れたと聞いて安堵し、おかやは勘平をなじったことを泣きながら謝る。 郷右衛門は連判状を取り出すと、勘平の前に広げ、その場で四十六人目の同志として血判を押させた。 やがて勘平は静かに息を引き取るのであった。