「津田梅子が2人いれば」理系女子教育2023/01/21 07:05

 去年のクリスマス、12月25日は日曜日で、朝日新聞朝刊に「日曜に想う」があった。 有田哲文記者の、「津田梅子が2人いれば」。 2024年に5千円札の顔になる津田梅子が、20代で2度目の米国留学をして、生物学に打ち込んでいたことは、あまり知られていないが、科学史家の古川安(やす)さんが光をあて、その研究を『津田梅子 科学への道、大学の夢』(東京大学出版会)にまとめたというのだ。 ブリンマー大学で生物学を学び、後にノーベル生理学・医学賞を取るトーマス・H・モーガンの最初の教え子で、カエルの卵についての論文を共著で発表し、それが日本女性による科学論文の第1号になったことは、18日に書いた髙橋裕子津田塾大学学長の講演にもあった。

古川安さんは、「女性が科学者として生きることが不可能に近いとわかっていた時代状況の中で、敢てそうしたのは、梅子なりの時代への挑戦だったのではないだろうか。(中略)タブーに挑戦し、不可能が実は可能である証(あかし)を見出そうとした」のではないか、と書いているそうだ。

ブリンマー大学には全米でも先進的な生物学のカリキュラムがあり、優秀さを見込まれた津田梅子は、助手として大学に残って研究を続けないかと誘われた。 しかし梅子は、その申し出を断って帰国する。

 有田記者は、こう言う。 「その後の女子教育への貢献を思うと、帰国の選択は正しかったに違いない。しかし、だからこそ考えてしまう。もしも梅子が2人いれば、と。もう1人の梅子は米国で道を切り開き、科学者をめざす日本女性のロールモデルになったのではないか。」

 大学での女子の科学教育で日本はいまも後れをとっており、経済協力開発機構(OECD)加盟国中、理工系女子学生の割合は最下位だ。 米マサチューセッツ工科大学の学士課程での女子比率は48%にのぼるが、東京工業大学では13%にとどまっている。 その東工大が先日、入学試験に女子枠を設けると発表した。 まずは2025年度までに、入学者の女子比率20%超をめざすという。 ロールモデルが増えれば増えるだけ、社会は変わる。 東工大が踏み出した一歩は決して小さくない、と有田記者は言う。

 津田梅子がカエルの卵の研究をしたというので思い出した。 当時からカエルの研究がしたいと言っていた、東京オリンピックのボクシング金メダリスト入江聖奈さんが、東京農工大学の大学院に合格したそうだ。