昔昔亭昇の「やかんなめ」2023/03/04 07:07

 2月24日は、第656回の落語研究会だった。

「やかんなめ」  昔昔亭 昇

「納豆や」    三笑亭 夢丸

「突き落とし」  春風亭 一朝

       仲入

「三人無筆」   柳家 小せん

「按摩の炬燵」  柳家 喬太郎

 昔昔亭昇、せきせきてい・のぼる、紫の着物で、ありがとうございます、と出て来て、客席に手を振る。 家族がいる、と。 落語研究会、夢の瞬間で、続きが見たいので、昔昔亭昇を出すように、ハガキを5枚ずつ出してもらいたい。 おバカな噺で、と噺に入る。 癪(しゃく)というご婦人特有の病気がある、何かに驚いた時に、軽い胃痙攣のようになる。 薬は、「合薬(あいぐすり)」という民間療法があって、一つはフンドシの臭いをかぐ、もう一つは親指で腰骨を強く押す。 さる商家のお内儀さんは、薬缶をなめるのが「合薬」だった。 お清という女中と小僧の貞吉を供に、ご隠居さんの所へ行くことになった。 貞吉が荷物に薬缶があるのを見て、薬缶は間違ったんだろうと、重箱だけ風呂敷に包んで出かける。

 原っぱの真ん中で、道を青大将が横切り、お内儀さんがハッハッと癪の発作を起す。 お清が、貞吉、薬缶を出して頂戴、と。 薬缶は、置いて来た。 原っぱの真ん中、薬缶を借りる家もない。 そこへ、侍と中間(ちゅうげん)の可内(べくない)、仲の良さそうな主従がやって来た。 あの店で、一番美味しいのは塩豆大福だ、などと話している。 お清が、あのお侍さんのおつむりの形、うちの薬缶にそっくり、あれ借りられないかしら、と。 駄目、無理だよ。 失礼な奴、手討にしてと言われたら、その時はその時、お願いしてみましょうか。

 お願いがございます。 何だ、娘御、仇討ちの助太刀か? 腕には、自信がある。 可内は、道場にたった三か月通っただけ、と。 四か月だ。 お内儀さんの仇、主の仇か。 蛇なんでございます。 マムシはいかんぞ。 普通の青大将で。 実は、お内儀さんがそれを見て、癪の発作を起したんで。 家内もよく癪を起す、拙者にフンドシを貸せ、臭いをかぐというのか、いい憎いな。 それとも親指か、江戸中探してもこれほど見事なマムシ指はないぞ。 そうではございません。 薬缶をなめるというのか、持っておらん。 代わりの物で、お武家様のおつむりが、薬缶と瓜二つでございまして、ぜひとも主人になめさせてあげて下さい。 可内は、減るもんじゃないから、なめさせてやりなさい、と。 これ娘御、儂(わし)の頭か、天下の直参の…。 ご賢察でございます。

 無礼者、そこにならえ、勘弁ならぬ、可内、何を笑っておる、素っ首落としてくれる。 二つに一つとお願いをいたしました、この首をお好きなように。 何、覚悟して参ったのか、泣かせるのう、可内、指をさして笑っておるな、同じ奉公人でありながら…、笑うのは止めろ、見ろこの娘御、命をかけても主人を助けようとしておる。 クソーーッ、あいわかった。 本当であれば、許しがたいことではあるが、主人を思うそのほうの気持に免じて、ちょっとだけなら、なめさせてやろう。 私、人形町の……。 名乗らんでよい、儂も名乗らん、礼にも来なくてよい。 娘御泣くな、可内笑うな。 可内、まわりを見張れ。 ハウハウ、ベーロベロベロ、ベーロベロ。

 お内儀さん、気が付きましたか。 アァ、みんないたのか。 こちらのお武家様のおつむりをなめさせて頂いて、癪が通じたのでございます。 しょっぱくて、脂ぎっていて……、アァ、アアーーーッ! 大丈夫か? もう一度、なめさせてやるか。