春風亭一朝の「突き落とし」後半 ― 2023/03/07 07:10
みんなで、ぞろぞろ大門をくぐる。 お遊び願いたいんですが…、お願いします。 駄目だ、棟梁が一緒なんだよ、棟梁がふだん遊んでいるのは角海老、格式、方式が、お前んとこのような安直なんじゃない。 見ろよ、いいねえ、中の下だよ。 ちょっとお待ち下さい、手前どもにも面白いところがある。 棟梁に、聞いてみよう。 棟梁、電信柱の陰で甘納豆を食って、つっぱらかってる。 こんな店だけど、どうでしょう? いいよ、一緒に登楼ってやろう。 大勢さん、お登楼りになるよ!
芸者を揚げて、さんざん飲み食いして、それぞれ遊んで、おしけになる。 カラスカアで、夜が明ける。 何だい、見て頂きたい物って? 勘定書か、もう済んじゃってんだろ。 おうおう、ずいぶん飲んだね。 ずいぶん、書いてきたね。 ビール半ダース、お持ち帰り。 吉さんという方が、近所のお土産だそうで。 鳥打帽子一つ。 新さんという方が、洒落にかぶると、洋品屋からお取り寄せに。 長靴一足。 鉄さんという方が、業平橋に伯父さんがいらっしゃるとかで。 アレッ…(懐をさぐり)、紙入れ、乱れ箱にあるだろう。 ありません。 違い棚は? ありません。 そうだ、ゆんべ、飲み過ぎて、預けておいたんだ。
みんな、集まれ。 清公! 俺はいい、羽左衛門やめた。 おはよう! おはよう! おはよう! 清ちゃん、紙入れ、お前じゃないか。 姐さんに言われた、明日は大切な建前だから、間違いがあるといけないから、紙入れは預かっておくよ、と預けたのを、忘れてきた。 馬鹿、間抜け、ゲジゲジ! イテェ、こっちは、ぶっちゃいけねえって方を、ぶった。 すぐそこ、大門を出てすぐの田町だから、付き合ってくれねえか。 弱りましたね、そういうことはやらないんでございます。 お前の裁量で。 ご内証が五月蠅いんで。 昨夜は、派手なお遊び、福の神が舞い込んだようで、と言っていたじゃないか。 運の神様の髪は、前髪だけで、後ろはツルッ禿だという、札が舞い込んで来るのをつかまないと駄目だ。 他の者でしたら。 金どん、行ってくれるかい。 こちらの者が参ります。 いいねえ。 ヒョロヒョロだ、突き落とし易い。
ゆんべは、女にもてたな。 立小便をすれば判る。 一番もてた奴に、羽織と祝儀をやろう。 若い衆も、一緒にしないか。 私、出ませんから。 関東のなんとかというじゃないか、付き合えよ。 尾籠なお話ですが、みんな鉄漿溝(おはぐろどぶ)に並んで、立小便をする。 若い衆の腰のあたりを、誰かが突き飛ばす。 キャーーッ、ドボン!
アラヨッ、逃げろ。 遅いな。 吉さんは、ビール半ダース、担いでるんだ、エビスビール。 新さんは、帽子が飛ばないように走る。 鉄さんは、長靴で、カッパン、カッパン、走ってる。 そこの路地を曲がれ。 みんな、いるか? 一人、足んねえ。 清公だ、腰を突き飛ばしたのは、あいつだ。 向うから、来たよ。 待ってくれーーッ。 いい煙草入れだな、それ。 若い衆が腰に下げていた、もったいないから持って来た。 泥棒だ。
味を占めて、今度は品川でやったところ、顕われて、一同、高輪警察に留められているそうで。
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