雷門音助の「堀之内」 ― 2023/04/01 07:06
3月24日は、第657回の落語研究会だった、相変わらず抽選だが、三人になって天ぷら屋さんで食事してから入る。
「堀之内」 雷門 音助
「本膳」 三遊亭 朝橘
「夢の酒」 柳家 さん喬
仲入
矢野誠一作「蕎麦の隠居」 入船亭 扇辰
「帯久」 春風亭 一之輔
雷門音助は高い声、マスクをしたまま、アイスコーヒーを飲んで、マスクが茶色くなった話から、名前や顔を覚えられない粗忽者の噺に入る。 前から来る人、どこかで見たことがあるんだけれど、誰だっけ。 あっ、傍に来ちゃった。 すみません、どなたでしたっけ? 馬鹿! お前の親父だ。
おっかあ、大変だ、友達の家で、足が一本、短くなっちゃった。 下駄と草履、履いてるからだよ。 余計ひどくなった、治るかな? 草履脱いだからだよ。 そうだ、そそっかしいのは、信心すれば治ると言われた。 新宿の先、堀之内の……、水天宮? お不動様? アラーの神様? お祖師様だ。 明日、行くから、もう寝よう。 まだ、明るいよ。
お前さん、早く起きなよ。 信心に行くんじゃないのかい。 ああ、そうだ、出掛けよう。 サルマタのままで、かい。 そうだ、顔を洗おう。 箪笥を開けても、だめだよ。 水が溜まらない。 それ、ザルだよ。 お鍋で顔洗ったのかい、鼻の頭にワカメがぶら下がっている。 それは雑巾、それは布巾、それは猫。 引っかかれたよ。 飯を食ったら、自分で弁当を風呂敷に包んで、行ってきな。 弁当の風呂敷を首に結わえて、お賽銭を持って、と。 気を付けて、道がわからなくなったら、聞くんだよ、堀之内のお祖師様へ行くんだって。
朝の外は、いい心持ちだ、お題目を唱えて行こう、ナンミョウホーレンゲーキョウ、ナンミョウホーレンゲーキョウ! 派手なシャツ着てる人がいるな。 ポストだった。 ずいぶん長い帯が落ちてるな。 電車の線路か。 道がわからなくなった。 すみません、私はどこへ行くのか、教えて下さい。 わかんないよ、さっきお題目を唱えていたようだから、堀之内のお祖師様じゃないか。 知ってるんじゃないですか、堀之内って。 堀之内のお祖師様なら、これを行って、鍋屋横丁を入ればいい。
また、道がわからなくなった、茶店で聞こう。 ここが、祖師堂です。 そうですか。 私を拝んでも駄目、あちらが祖師堂で。
お賽銭を、と……、財布を放り込んじゃった。 お釣りは出ないか、十日分です。 本堂の縁側で、弁当つかわせてもらっていいですか。 ご随意に。 妙な風呂敷だな、両側に紐が付いている。 カカアの腰巻だ、枕が出て来た。
今、帰ったよ、弁当の風呂敷、お前の腰巻だったぞ、気をつけろ。 亭主が怒ってるのに、何笑ってる。 お前さんの家は、隣りだよ。
腰巻二枚しかなくて、一枚は洗ってるんだ、この辺がスースーしてて。 金ちゃん、お父っつあんと、お湯へ行ってきな。 いやだ、お父っつあん、逆さに入れるから。 後ろに回れ、負ぶうから。 ヨッコラショッと、大きなお尻だな。 私だよ。 カカアか。 重いな。 柱だよ。 金、重くなったな、幾つになった? 七つ。 八歳か? 七歳。 お隣の源ちゃんは、九つ。 学校の先生に頼んで、お前も九つにしてもらえ。 お父っつあん、お湯屋、通り越したよ。
お前、赤い兵児帯してんのか。 あんた、何で家の娘を裸にするんだ。 金、一人で脱いだんか。 じゃあ、入るか。 お父っつあん、まだ着物着てるよ。
金、いい体になったな。 何だ、この野郎! 鳶頭でしたか。 金、背中を流してやる。 何だ、お父っつあん、お湯屋の羽目板、洗ってら。
三遊亭朝橘の「本膳」 ― 2023/04/02 07:18
朝橘、初めての落語研究会、未知との遭遇だと。 知っていたら、屏風と同化する色の着物を着てこない。 テカリを抑えるメークをしたので、羽織(ピンク)は脱ぎません、いなくなっちゃうから。 ディレクターは、着物の色以外の事は、丁寧に教えてくれた。 「笑わないお客さん」だと。 袖で見てましたが、マジ! 「堀之内」は、緊張する噺じゃない。 緊張は、「帯久」まで取っておいて下さい。 お客さんは、データ取って、研究してるのか、楽しんで下さい。 ストレス・テストに耐えられないので、どうぞお手柔らかに。 楽屋でも、どこに座っていいのか、騙し合い、心理戦。
庄屋の娘が嫁っこに行くお祝いに「本膳」の「そうぶるめえ」があるという知らせ。 村の衆、誰も「礼式」を知っとる者はない。 どうしようとなって、村はずれの手習いの先生は物知りだからと、大勢で聞きに来た。 一番上座に先生が座り、村の衆17人、先生のやることを、そっくり真似することにする。 先生、よろしく。
庄屋さんの座敷に、17人が居並ぶ。 ドタマを、下げろ、始まるぞ。 ゴゼエモン、ドタマが出っ張ってるぞ。 今度は、ドタマ上げるだ。 お椀のフタを取って、お箸を持って、フーフーして、一口吸うんだ。 うめえな、残らず飲んじまった。 残らず飲んでは駄目だ、あとで何かに使うんだ、吐き出せ。 向う向いて、やれ。 さっきより、増えた。 汚えな。
次は、芋だ。 先生が芋を取ろうとして、お膳に転がした。 先生、箸を芋に突き刺そうとして、それもうまくいかない。 あれが「礼式」だと、みんなで真似する。 芋が、行方不明になった。 先生は、まだやっとるぞ。
つづいて、高盛りのご飯。 「まんが日本昔話」は、TBSでしたっけ? 鼻の頭にご飯粒を三つのせるんだ。 みんなで、鼻の頭にご飯粒を三つのせる。 先生、いい加減にしろと、隣りの衆の脇腹を、肘でドーンと突く。 これが「礼式」か、受け取れ、と隣をドーン! 蕎麦のわりめえを、まだ貰っていねえからと、ドーンと突く奴も出て、ドーン、ドーン、ドーン! 一番終いが壁で行き止まり。 仕方なく、戻す。 ドーン、ドーン、ドーン! 先生、怒って、御御御付を頭からかける。 そうか、おつゆの残り、ここで使うんだ。
柳家さん喬の「夢の酒」前半 ― 2023/04/03 07:00
春爛漫、この雨で満開の桜が、ちょいとしぼむ。 夢は、どこで見るのだろう、頭か、心か。 夢を見る、と、夢を持つ、は違う。
あなた、若旦那、起きて下さい。 風邪を引きますよ。 大黒屋さんの若旦那さん、起きてよ。 笑ってる。 いけません、なんだ、お花か。 あなた、夢を見ていたでしょう、どんな夢だったか、聞かせてよ、ちょっとでいいから。 店では大勢でしゃべって楽しそうなのに、奥は一人ぼっちで寂しい、こんなドジをしたって、笑っていたい。 夢なんか、見てません(と、羽織を脱ぐ)。 ね、話してよ。 私は噺家じゃない。 話してもいいけど、お前怒るよ。 怒りませんよ。 本当に怒らないか。
向島をぶらぶらしていたんだ。 花柳界で、三味線や太鼓が聞こえてくる。 三囲神社、長命寺、牛のごぜんさま(牛嶋神社)。 突然抜けるような雨が降って来た。 一軒、軒のある家で雨宿りをしたら、中戸が開いて、女中さんが出て来て、そんな所で雨宿りしてないで、奥でと、ご親切に言う。 あら、大黒屋さんの若旦那さんじゃありませんか。 店のお客さんなのか、私のことを知ってるんだ。 ご新造さん、あなたの恋焦がれている大黒屋の若旦那さんが来ていらっしゃいますよ、と奥に声をかけた。 お清、上がって頂きなさいと、泳ぐように出て来た、その顔をまじまじと見て、世の中にこんなきれいな人がいるのかと思った。 目元に憂いがあるが、口元には笑みをたたえている。
酒、肴のお膳が出て来た。 私が親父と違って下戸だと言うと、おばあちゃんのお酌じゃおいやでしょうけれど、毒が入ってるんじゃないから、一杯だけでも飲んで下さいとすすめる。 それで、じゃあと一杯飲んだ。 私も一杯ってんで、ご返杯。 やったりとったりして、二人で五、六本も飲んだかな。 えっ、あなた、お酒を飲んだんですか、二人で。 この話、止めた。 話して下さい、それでどうなったか。 ご新造が三味線を取り出して、端唄、小唄、都々逸になった。 ♪これほど想うにもし添わざれば、わたしゃ出雲に暴れ込む。 その顔の色っぽいこと。 それで、どうなったんです! 怒ったじゃないか。 怒ってません!
飲めない酒を飲んだものだから、頭が痛くなった。 清や、蒲団を敷いとくれ。 横になると、ご新造が手拭いを絞って、おでこにあててくれた。 気分がよくなったので、これでお暇しますと言ったら、ご新造が私も頭が痛くなった、と言う。 私も若旦那のそばにって、帯をするするっと解くと、派手な長襦袢で、蒲団の中に入ってきた時に、お前が起こしたんだ。 ヒーーッ、くやしい! あなたという人は、何てことをするんです。 怒ってるじゃないか。 怒ってません、お父っつあんに言い付けます、あなたのしていることが、正しいか、正しくないか。
倅もお花も、大声を上げて、何をしているんだ。 店に聞こえるじゃないか。
柳家さん喬の「夢の酒」後半 ― 2023/04/04 06:55
若旦那は、そのご新造を世の中にこんなきれいな人がいるのかと思ったっていうんです。 えっ、話してごらん。 お花、泣くとか、しゃべるとか、どっちかにしなさい。 おばあちゃんのお酌じゃおいやでしょうけれど、毒が入ってるんじゃないから、一杯だけでも飲んで下さいとすすめたんだそうで。 すすめ上手だな。 やったりとったりして、二十五本も飲んだんだそうです、ウワッ、ウワッ! 息を吐きなさい。 若旦那は、頭が痛くなって蒲団に横になった。 飲みつけないものを飲むからだ。 その蒲団の中に、ご新造が入って来た。 そんな不行跡なことをしたのか、お花が怒るのは当たり前だ。 何、笑ってる。 お花が泣いて、親父が怒っているのに、お前は何が可笑しい。 今のは、みんな夢の話ですから。 お花、そうなのか。 はい、そうなんです。 倅、どうしてそういう手数のかかる夢を見るんだ。 美人局か何かだったら、悪い人にからまれることになって、世間でお店の評判も落ちることになります。 お父っつあん、そのご新造に会って、若旦那にちょっかいを出さないように言って下さい。 夢の話だろ。 淡島様に願をかけて、上の句を詠みあげて寝れば、夢の人に会わせてくれると言います。 お父っつあん、今すぐ、昼寝をして下さい。 お店で、若旦那が夢の続きを見るかと思うと、私はウワッ、ウワッ、ウーーッ! わかった、わかった、願をかけよう。 どうか淡島大明神様、上の句を差し上げますので、倅の夢のところへ。 「われ頼む 人の頼みの なごめずば」(下の句は「世に淡島の 神といはれじ」) グーーッ! グーーッ!
ご新造さーーん、大黒屋の大旦那様がいらっしゃいましたよ。 先ほどは、倅がお邪魔して、ご厄介になりましたそうで。 倅にお花という嫁がおりまして。 お清、お父っつあんに上がっていただいて。 何してんの、お清、お酒の仕度を。 お好きなんだそうだから、冷やでいいから。 冷やは駄目、若い時に失敗しまして、燗で。 つなぎで、冷やをいかが。 冷やはいけない、待ちますから。 何してんの、お清。 冷やは駄目。
お父っつあん、お父っつあん! 私は、冷やは駄目。 何だ、お花か。 ご新造に会いましたか? 惜しいことをしたよ。 お叱言の最中でしたか。 いや、冷やでも飲めばよかったなあ。
入船亭扇辰の矢野誠一作「蕎麦の隠居」前半 ― 2023/04/05 07:02
白熱の後半戦に入ります。 暑さ寒さも彼岸まで、というけれど、今日は暑かったですね、永田町から歩いてきました。 そこそこのご来場で。 人間、道楽があった方がいい。 車に例えると、日々の暮らし、家事、育児、介護、私の嫌いな四字熟語「確定申告」など、錆び付いた車輪に、道楽があると、よく回るようになる。
食い道楽は、幸せだけれど、他人(ひと)迷惑なのもある。 品のいい、ご隠居が、店に入って来る。 何を、差し上げましょう? お蕎麦を半分。 お蕎麦、半丁! あっという間に、つるつるっとやって、そば湯を美味しそうに飲んで、おいくら? 十六文。 ご内所の主(あるじ)はおいでか? 私が、主で。 蕎麦屋を営んで、何年になる? 親父の代からの蕎麦屋で、花番、打ち手、釜前、中台と修業して、八年前に親父を亡くして継ぎましたが、子供の頃からの蕎麦屋暮らしで…、今年は四十二の厄年になります。 お蕎麦は、おいくら? 十六文。 半分でも、十六文かい、きりのいいところで十文でいかがかな? 承知致しました。 いいのかい、いいお店だね、蕎麦は日に一度は食べないといられないんで。 どうぞ、ご贔屓に。 御免! ケチなご隠居だな。
あくる日の昼過ぎ。 何を、差し上げましょう? お蕎麦を一枚。 蕎麦、一丁! 杉箸を割り、つるつるっとやって、そば湯を美味しそうに飲んで、おいくら? 十六文。 ご内所の主はおいでか? 私が、主で。 蕎麦屋を営んで、何年になる? 親父の代からの蕎麦屋で、花番、打ち手、釜前、中台と修業して、八年前に親父を亡くして継ぎましたが、子供の頃からの蕎麦屋暮らしで…、今年は四十二の厄年になります。 これは、何? 猪口、出石焼で。 見てごらん、口の所が少し欠けている。 こんなものを、お客さんに出しちゃあ、いけません。 確かに、欠けております、気が付きませんで…。 わかればいい、お代はここに置く。 また、お叱言を言われました、どこのご隠居か。
あくる日の昼過ぎ。 お蕎麦を二枚。 蕎麦、二丁! いかにも美味しそうに、つるつるっとやって、おいくら? 三十二文。 ご内所の主はおいでか? 私が、主で。 蕎麦屋を営んで、何年になる? 親父の代からの蕎麦屋で、打ち手、釜前、中台と修業して、八年前に親父を亡くして継ぎましたが、子供の頃からの蕎麦屋暮らしで…、今年は四十二の厄年になります。 お膳を見てごらん、何か、柄にしちゃあおかしい。 汚れております。 薬味がこぼれて、蕎麦が二、三本ついてる。 きちんと、拭いておかないからいけない、塵っぱ一つ落ちてないのが、食べ物屋さんだ。 お代はここに置く。 また、お叱言を言われた。
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