春風亭一之輔の「帯久」中 ― 2023/04/08 07:01
帯屋、黒板塀に見越しの松、立派な家になっており、さらに普請中だった。 乞食が来ました、と小僧。 番頭は、これは相済みません、和泉屋さんですよね、ずいぶんおやつれで、大病をなさったそうで。 旦那、和泉屋さんが見えました。 与兵衛さん、まだ生きていたのか、驚いたな。 いないって、そう言え。 もう、おりますと申しました。 帰って貰え。 わかったよ、通しな。
帯屋久七、十畳の座敷、縮緬の座布団に座って、肩を揉ませている。 ご繁盛で、おめでとう存じます。 火事でお気の毒なことでした、何か用で。 十年前に、娘と家内が亡くなり、身代を火事で焼いてしまい、分家の武兵衛の所に身を寄せて裏長屋住い、いくばくかご都合頂けませんか。 今、家の普請をしてまして、お足がかかる、お貸しする余裕はない。 それはわかりますが、十年前、二十両都合させて頂きました。 利息の分とお思いになって、お貸し願えませんか。 二十両は、すぐ返した。
五月に三十両、七月五十両、九月七十両、暮になりまして百両、都合させて頂きました。 みんな返したでしょう。 暮の百両、お返し頂けたと思うのですが、百両がどこに行ったのか、煙のように消えてしまったのでございます。 そこにいらしたのは、帯屋さんだけ、その場を外したのは、私の粗相ですが。 武兵衛になんとか店を持たせてやりたいので、いくばくかご都合頂けませんか。 物乞いなら、裏からお椀を持ってくればいい。 帰ってくれ! 帰れ! お願いいたします、この通りで(と、頭を下げる)。 帰れ! お金は上げます、こっちにおいで。 これで、どうだ!(と、煙管で和泉屋の額を打つ) お打ちになりましたな。 小僧に外へおっぽり出された。
和泉屋は、泣きながら店の裏へやってくる。 武兵衛が止めるのも聞かずに、出て来たのがいけなかった。 私がいなくなれば、いい。 武兵衛は楽になる。 松の木に縄をかけて、首をくくろうとするが、くくれない。 普請場の鉋屑が目に入った。 家だって、燃えたんだ。 火打石で、火を付ける。 ハハハハハ、燃えろ、燃えろ。
まだ宵の口。 なんか、きなくさい臭いがする。 火付けだ。 さっきの爺イだ。 町役人が来て、数人で自身番へ放り込まれた。
和泉屋さん、どうなさったんですか。 皆さん、すみません。 帯屋に、そんなことをされたんですか、酷い奴だ。 われわれで、なんとか収めますから。 よかったら、これで精の付く物でも、召し上がって下さい。
帯屋の方で、奉行所に訴え出る。
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