絵本が生まれるとき<等々力短信 第1166号 2023(令和5).4.25.>2023/04/18 07:01

   絵本が生まれるとき<等々力短信 第1166号 2023(令和5).4.25.>

 4月15日、千葉県一の貯水面積を誇る高滝湖に面した、自然豊かな立地の市原湖畔美術館の「末盛千枝子と舟越家の人々」展(6月25日まで)のオープニング&トーク「舟越家の芸術」にお招き頂き、見せてもらった。 東京駅周辺発着のバスツアーも手配されていて、雨のせいもあってか渋滞もなく、往復とも1時間ほどの行程だった。

 末盛千枝子さんの短信初登場は、昭和61(1986)年12月、411号「ある絵本の話」、412号「電話番号」、413号「どうにか様」。 なぜ末盛ブックスの絵本が生まれたか、ゴフスタイン作・絵『画家』、妹カンナさん文『あさ』、津尾美智子さん絵『パパにはともだちがたくさんいた』、彫刻家の父舟越保武さん、そして千枝子さんの意気消沈するような状況にあっても、けして明るさや希望を失わない強さを、既に書いていた。

 展覧会は、末盛さんの手がけた63冊の本、津尾さん、井沢洋二さん、はらだたけひでさんの美しい繊細な原画、保武さん、弟桂さん、直木さんの彫刻やデッサン、母道子さん、妹苗子さん、茉莉さん、カンナさんの絵、末盛憲彦ディレクター「夢であいましょう」関係資料、千枝子さんのウェディングドレスの写真まで、見ることができる。

 トークの初め、この展覧会に深く関わった次男の春彦さん(素敵に成長していた)が、「ひとつひとつ こつこつ 丁寧に」、桂叔父の『言葉の降る森』にある「始めれば、そしてそれをつづけていれば、いつかは完成する。いつかはたどり着く。」を心がけ、宝探しをした。 その過程で、叔父や叔母、母と、たびたび連絡を取って会い、家族の話をするのが楽しく、それは絵本のような時間だった、と話した。 千枝子さんは、姉弟妹だけではまとまらない、春彦の働きに感謝、末盛憲彦のDNAだろうと。

 館長の北川フラムさんは、舟越保武先生、桂さん、直木さん、それぞれ、みんなすごい、並じゃない。 保武先生は、敗戦で日本全体が共有の意味を持てた時、一般の人たちが共有できるものがあった時代の、最後の花ともいうべき、最高の作品を作った。 ≪長崎二十六殉教者記念像≫(1962年)、秀吉の最後の頃の殉教、何でこんな過酷な目に遭って、そこから希望があるのだろうか、一人一人を勉強して思いを込めた。 ≪ダミアン神父≫像は、全部の経験、技術を射し込んだパブリックアートの最高傑作だ。

 大学時代が≪長崎二十六殉教者記念像≫制作の時期だった千枝子さんは、運び出す日が雨で、運送屋さんが「涙雨ですね」と言った。 その後、父が着物の無地の生地に絵を描き始めた、母が除幕式に着るためのものだった。 母が嘱望されていた自由律俳句を止めるように言って結婚し、彫刻だけで七人の子を育てる、大変な暮らしだったけれど、いい夫婦だった。 それを有難いと思っていた、と語った。

コメント

_ 清宮政宏 ― 2023/04/18 09:25

市原湖畔美術館行かれたんですね。周りの高滝湖も含め、昔は自分の定期的なドライブコースの一つでした。コロナ前は、5月連休の時期に合わせてアートイベントも行われてよく行ってました。

_ 轟亭(末盛さん) ― 2023/04/20 09:58

市原湖畔美術館「末盛千枝子と舟越家の人々―絵本が生まれるとき―」展の記念出版として、末盛千枝子著『出会いの痕跡』(現代企画室)が4月15日に刊行されています。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック