どうにか様(等々力短信 第413号)2023/04/23 07:06

      どうにか様<等々力短信 第413号1986(昭和61).12.25.>

 ささやかながら応援の気持をこめた、これは愛読者カードですと書いて、短信411号「ある絵本の話」を、勇気をふるって、末盛千枝子さんに送った。

 すなおに喜んで下さって、素晴しいご返事をいただいた。 「主人の遺してくれた様々なものの中から、いろいろと学びながら、毎日を送っているので『私のところは共稼ぎだから』とよく言っております。それが実感です」と、書いておられる。

 前号の山荘の電話のお話もそうだが、何という強さだろうか。 意気消沈するような状況にあっても、けして明るさや希望を失っていないのだ。

 お父上の舟越保武さんのエッセイを読んでいると、随所に愉快な話がある。 井上靖さんのご近所にお住まいなのだが、顔が似ているので、よく間違えられる。 喫茶店で、店主の母親とおぼしき老婦人まで、奥から出て来て、バカ丁寧なおじぎをしたりする。 数年前、井上靖さんの新聞小説のさしえを頼まれた。 新聞社の担当者が、打ち合わせで、井上さんの顔を見ている内に、舟越さんのことを思い出したのではないか、というのだ。

 舟越さんは、理由もなく気が沈んでしかたがない時、「眼は人間のマナコなり」とか、「大きな時計に小さな時計、どっちも時間がおんなじだ」とか、落語のヨタロウさんのせりふを、口の中で繰りかえしていると、いつの間にか、気持が明るくなるという。

 舟越さんより一つ年上、明治44年生まれの私の父も、艪舵なき舟の大海に乗り出せしが如き、零細企業経営五十年、「どうにもならない時には、どうにか様という神様が出て来て、どうにかしてくれる。こうにもならない時には、こうにか様という神様が出て来て、こうにかしてくれる」とか、「闇夜の後には、必ず月夜が来る」とか、言っている。 口中バランス回復剤 “元気の素”明治丸といったところか。 「売れない」「厳しい」と、泣き言を並べるお得意さんをつかまえては、今やガラス工場は希少価値になった、朝、会社に出て来ると、カバンにお金をつめた人の行列が出来ている夢を見た、そうなれば、返品の多い人、作る者の立場を考えない人は、後回しになると、教育(?)している。

 私も『五の日の手紙』(最初の私家本、1986(昭和61)年11月5日刊)が、どっさり我が家に届いた日、家の者に、今に本の欲しい人の行列が出来る、と言った。 が、只今現在、まだ窓の外に人の並んでいる気配はない。

 何はともあれ、新年も、元気を出して、明るく、いきましょう。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック