柳亭市童の「洒落小町」2023/04/26 06:59

 やや旧聞になったが、4月14日は第658回の落語研究会だった。

「洒落小町」      柳亭 市童

「松田加賀」      八光亭 春輔

「茶の湯」       古今亭 菊之丞

        仲入

「てれすこ」      瀧川 鯉昇

「三十石」       柳亭 市馬

 柳亭市童(いちどう)も、「洒落小町」も初めて聴く。 お松っつあん、ガチャ松っつあんと呼ばれるおしゃべりなおかみさん、大家に、素通りはないだろう、と声をかけられる。 大家さん、お久し振り。 何か、長屋に面白い話はないか? 大家さんが、肥溜めに落っこったって噂です。 誰から聞いた? 家の人から。 何だ、お前が言いふらしているんじゃないか、みっともない。

 亭主の熊ですが、馬鹿、狸、狐、あん畜生、すぐ穴っぱいり、浮気に行くんです。 おっかあ、羽織出して。 どこへ行く? 散歩、考え事。 追いかけて行くと、隣町の、隣町の、隣町、黒板塀に見越しの松、そこへ奴が入った。 二階に灯が点り、三味線の音がして、「晴れて雲間に……」と亭主の声。 それで、玄関をガラッと開ける、二つ折れの婆アが出て来たのを突き飛ばし、階段を駆け上がる。 あと二段という所で、障子が開き、奴に押されて、階段をダダッと落ちた。 それからタブサをつかんで、あたしのことを振り回しやがった。 入れ歯を外して行ったんで、ドテで噛みついてやった。 スッポンだね。

 お前があんまりうるさいんで、亭主が浮気をするんだろう。 亭主は昼間、仕事をして、すり減っている。 楽しみは、家に帰って、女房にお酌してもらうことだ。 そこをガミガミ言われた日にゃあ、脇に女をこしらえたくなる。 在原業平を知っているか? 業平…、水が出る所でしょ。 場所じゃない。 井筒姫という女房がいたが、河内に想い人がいた、お妾。 お出かけ? 二号だな。 鉄人は28号。 女房は、浮気を認めてくれていた。 雨風激しい晩、女房は、あの子の所へ行ってやったら、夜中に忍んで来る男でもいるんじゃないかと雨戸を開けるだろうと、歌を詠った「風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」。 和歌だ。 馬鹿? 亭主の心配をしてくれたんだ。 在原業平は、河内に行くのをぴたりと止めて、井筒姫と共白髪まで暮らしたというな。

 亭主を喜ばせる気持が大事だ、お前も得意のおしゃべりで喜ばせるんだ。 駄洒落の稽古をしよう。 題を出す、「草履」。 内閣草履大臣。 「足駄」。 足駄の傷は一昨年の背比べ。 「絨毯」。 痰をペッと吐く。 汚いな、何だ? カーペット。 婆さん、拭いときな。 「台所」。 台所は、キッチンと整理しときましょう。 「包丁」。 包丁トッキョキョカキョク。 「とうもろこし」。 あらまあ、コーンなところに。 「キュウリ」「カブ」。 きゅうり言われても、カブっちゃいます。 家で、やって来ます。

 鏡の前で化粧している。 今、帰ったよ。 お帰りあそばせ、ウフフ、お酒にしますか、それともビール。 うるせえな、やめろ、やめろ。 屋根より高い、鯉幟。 何だ、何の合図だ。 会津磐梯山。 馬鹿、馬鹿。 やさしい言葉をかけて、ガチャ松の本領発揮、駄洒落の連発。 あまりのすさまじさに、亭主はまた、出かけようとする。 そうだ、足止めの歌があった。 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」。

 行っちゃったよ。 大家さん、うまく行きませんでした。 足止めの歌も駄目で。 何て、やった? 「恋しくばたずね来てみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」。 そりゃあ、駄目だ。 私が教えたのは、「風吹けば沖津白波立田山夜半にや君がひとり越ゆらむ」、お前のは狐の歌だ。 狐? ああ、それでまた穴っぱいりに出かけたんだ。