瀧川鯉昇の「てれすこ」2023/04/30 07:09

 「所変われば品代わる」というが、そうじゃない。 呼び方が変わる。 東と西、食文化の違い。 うどんとおそば、丸餅と伸し餅(四角い)。 鰻も、西は腹開き、蒸さずに蒲焼きにするから「まむし」と言い、江戸は背開き、蒸して焼く、武家で切腹を嫌う。 西、東、ちょうどぶつかるのが、わが故郷の遠州浜松、浜名湖の東。 ダイダラボッチが富士山につまづいて、手をついたところに水が溜まったのが浜名湖、見ていた人が何人かいる。 浜名湖の鉄橋で、上り下りがすれ違う。 東海道五十三次の二十七番目が袋井、東海道のへそ。 浜松、距離感から、いい所でもない、西の文化は鈴鹿、東の文化は箱根山が難所となる。 テレビも、「しゃぼん玉ホリデー」が、ホリデーでなく金曜日の5時半からの放送。 浜松で中2の時、英文和訳にHolidayが出て、金曜日と訳したら、英語の先生に呼ばれた。 生涯浜松にいるなら正解だがと…、故郷の懐かしい思い出だ。

 長崎の大浦に珍魚が上がった。 漁師たちが見たこともないと、驚いた。 せめて名前だけでもわかればいいと、御奉行所に持ち込んだ。 真鍋佐渡守が、物識りに見てもらう。 庭へ通され、タライの中の魚を見るが、見るのは初めてだった。 長崎には諸国人が来ているので、見せるのだが、これもわからない。 絵師が絵に描いて、「この魚の名のわかる者には、一百両を下げ渡す」と高札場へ掲げた。

 一人の町人、雑穀商の多賀屋茂平という者が名乗り出て、実物を見て、「てれすこ」と申します、と。 御奉行が、唸った。 言ったもん勝、みすみす百両を騙し取られたようなものだ。

 その魚が死んだ。 それを干して、絵師に絵姿を描かせ、「この魚の名のわかる者には、一百両を下げ渡す」と、また高札場に掲げた。 男が一人、多賀屋茂平、魚の名を存じ居ります、と御奉行所へ。 久しいのう、此度(こたび)の魚の名も存じ居るか。 実物を拝見、よく存じて居ります、「すてれんぎょ」と申します。 これは前の魚を干したもの、二つの名を騙(かた)らう、この偽り者めがと、牢屋に入れられる。 半月経って、罪科を申し渡す、死罪を申し付ける。 慈悲で望みを一つだけかなえてやる、何かあるか。 女房、子供に、一目会いたいと存じます。

 女房が、乳飲み子を連れて、御白洲にやって来る。 儂は身から出た錆びだけれど、お前はずいぶんやつれたようだ。 ご無事のご帰参を祈って、「火物断ち」(火を使ったものを食べない)をしていて、乳が出ない、そば粉を水に溶いて、乳を出すようにしております。 噺家にも、酒、女、博打を断って、修業する者が、一万人に一人はいる。

 苦労をかけたな、子供が大きくなっても、イカの干したものを、けしてスルメとだけは呼ばせないでくれ、と言う。 御白洲の中の話は筒抜け、名奉行、「てれすこ」を干すと「すてれんぎょ」なぞは、聴く側に知恵をつける、落語と同じだ、世の中の役に立つだろう、言い訳立った、百両を持って、妻子と立ち去れ。 助かった。

 御奉行はイカが好きと聞いて、女房はスルメを山ほど持って来た。 「火物断ち」していたソバ粉を、いくら水に溶いても、ドロドロ。 これじゃあ、手討ちにならねえ。

コメント

_ 轟亭(浜松) ― 2023/04/30 07:13

大河ドラマ『どうする家康』第15回「姉川でどうする」で、引間を「浜松」と名付けたのは、瀬名の築山殿、有村架純だとやっていた。また「紀行」で、「浜松」では鰻の東と西の両方の味が食べられる、とも。

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