俵万智さんに密着、NHKの『プロ』2023/05/05 06:53

 NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』という番組が、歌人の俵万智さんに密着した。 2月8日の朝日新聞文化欄のコラム「想 日向夏のポスト」で、俵万智さん自身が「言葉探し 同行者との旅」と、前年の秋から密着されていることを明かしていた。 打ち合わせをしているうちに、ディレクターのH氏が「短歌が生まれる現場」を撮りたいと思っていることがわかってくる。 「んなもん、でけるかーい!」と、俵さん。 2月27日に放送された番組を見ると、H氏は仙台に引っ越してきた俵さんが、段ボールから本を出して並べ始めたら、書棚がたわんできたため、未開封の段ボールで何とか支え、どうしようかと考えている現場で手を出している。 結局、後の場面では、別の金属製の書架に本は並んでいた。

 何とH氏は、まさに「短歌が生まれる現場」に踏み込んでいる。 早暁、ベッドに横になったパジャマ姿の俵万智さんが、半覚醒の時間帯にポコリポコリと浮かんで来る言葉を、ノートに書いているところを撮った。 ニヤリとした俵さん、浮かんだ短歌は、<ノンフィクションカメラの朝のパトロール現行犯で今撮っている>。

 恐るべしNHKの『プロフェッショナル』H氏。 俵さんが10歳年下のボーイフレンドと会うのにも、頬のシミを念入りに隠し化粧するところから、無理矢理同行、参入した。 デートですね? 約束して会うのだから、デートといえばデート。 だが、残念ながら、恋の歌は生まれなかった。 <恋の歌するりと逃げて藪の中三人で見るイルミネーション>

 昨年9月、俵さんは高齢の両親の暮らしをサポートするため仙台に住み、定禅寺通りの銀杏が見事に色づき、散るのを見た。 最初<我が部屋に銀杏は降らず小さめのゴミ箱さがす東急ハンズ>と詠み、「我が部屋に」がかたいかな、部屋の中に銀杏が降るというファンタジーを入れたいけれど、と。 言葉になっていない言葉を捕らえる、皆が感じているけれど、まだ言葉になっていない感情とか思いとか風景とか出来事とかに、言葉で印をつけていくのが、詩のひとつの形、大きな仕事だと思う、と言う。 この一首に6時間かけて、あれこれ推敲し、上の句と下の句を入れ替えたほうが流れが自然だと、<小さめのゴミ箱探す霜見月イチョウ降ることなきリビングに>とした。

 <父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母>

 <人生の予習復習 親といて子といて順に色づく紅葉>

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