福沢諭吉の苦悩は、今の私たちの課題2023/05/26 07:04

 大久保健晴さんの講談社現代新書100(ハンドレッド)『福沢諭吉』、題名を全部書けば『今を生きる思想 福沢諭吉 最後の蘭学者』を読んでいる。 「現代新書100(ハンドレッド)」とは、(1)それは、どんな思想なのか(概論)。(2)なぜ、その思想が生れたのか(時代背景)。(3)なぜ、その思想が今こそ読まれるべきなのか(現在への応用)。 テーマをこの3点に絞り、本文100ページ+αでコンパクトにまとめた、「一気に読める教養新書」だという。 あと何冊読めるのか、なるべくつまらぬものは読みたくない、先が短くなってきた老人の読書には、もってこいの本かもしれない。

 大久保健晴さんは、「はじめに」の「本書の現代的意義」に、こう書いている。 「東アジアが激動の時代を迎えた19世紀、福沢は蘭学者としての修業時代を経て、明治日本を牽引する思想家となった。本書は「はじまりの福沢諭吉」に遡り、蘭学を切り口にして、世界史の文脈を視野に入れながら、福沢諭吉と19世紀日本の学問ならびに政治思想の一断面に光を当てる。それは必ずや、私たちが生きる現代社会の源流を再検討する作業につながるであろう。」

 19世紀、西洋諸国における産業革命の進展に伴い、蒸気機関や電信が発達、地球上の時間距離が一気に縮まりはじめていた。 福沢は「蒸気、電信、印刷、郵便」の「進歩」は、「人民の往来を容易にし、物品の運送を便利にした」、各地の産物が容易に手に入り、さまざまな情報「インフォルメーション」が即座に世界中を駆け巡る。今や「世界の面」は「狭く」なり、国全体が一つの「都会」と化し、「全世界中に思想伝達の大道が開かれている」と言った。 それは今日まで続く、グローバル化の出発点だった。 福沢は地球全体を覆うコミュニケーションの変容を鋭敏に察し、蘭学修業で身につけた学識と経験を基礎にその原理を探求し、日本の文明化と独立に向けた政治構想を提示した。 それだけでなく、来たるべき世界を見すえ、交通やメディアの発展が人々の精神にもたらす弊害についても鋭い診断を加えた。

 さらにそこでは、文明化と独立をめぐる矛盾と亀裂もあらわになった。 グローバル化の波を受け、文明化を推進するなかで、これまでの日本社会を支えてきた伝統的な風俗や習慣、道徳的な紐帯は力を失っていく。 しかしひとたび国際政治に目を転じれば、圧倒的な軍事力と経済力を誇る大国が、自国の国益の拡大をめざして鎬(しのぎ)をけずっている。 これら強大な諸国と対峙し、日本の国家的独立を維持するためには、自分たちの手で国家を守る国民意識「報国心」を醸成しなければならない。 ところが「報国心」の基礎となる、国民を束ねる道徳的な紐帯は失われつつある。 どうすればよいか、福沢は憂悶した。 果たして福沢の苦悩は、もはや遠い過去のものであろうか。 私たちは福沢が生きた時代から、どれほど遠くまで歩んできたのか。 日本がその後に辿った歴史も含め、熟考の時が訪れている。 と、大久保健晴さんは言う。

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