俵万智さん第七歌集、還暦過ぎた現在地2024/01/27 06:59

 去年の5月、NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』が、歌人の俵万智さんに密着した話と、その番組が、俵万智さんのプロフィール、全体像も見事簡潔に伝えたことを書いた。
俵万智さんに密着、NHKの『プロ』<小人閑居日記 2023.5.5.>
平凡な日常の中から、心のときめきを詠む<小人閑居日記 2023.5.6.>

 そこに、こう書いていた。 34歳、チャレンジを一番したという第三歌集『チョコレート革命』を出してからの6年間は、テーマありきの注文に応えて、そこそこ上手に使える言葉を使って、言葉から言葉を紡いでいるに過ぎないんじゃないかと思う迷走期で、次の歌集が書けなかった。 「心がどんどん置き去りにされる。だから言葉と心は一対だってことを忘れずに言葉は使うってことかな、言葉には必ず心が張り付いている。」「言葉から言葉紡まず。」

 そのNHKの密着が五十首連作「アボカドの種」(『短歌』2023年2月号)を生んだということだったが、このほど第七歌集『アボカドの種』(角川書店)が出版されたという。 1月10日の朝日新聞夕刊は、その本の出版に関連して、還暦を過ぎた俵万智さんの現在地を伝えた(佐々波幸子記者)。

 そこには、一昨年春に息子が大学に進み、この先、どう歌を詠んでいくのか、問い直す日々が続いた、その時思い出したのが、陶芸家・富本憲吉の「模様より模様を造るべからず」という言葉だった、とある。 すでにある模様を利用して次の模様を造るのではなく、一回一回、自分の目で自然を観察して新たな模様を生む。

 <言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ>

 「言葉から言葉をつむぐことならAIにもできるが、ゼロから言葉を生み出すことは人間にしかできない。一首一首、世界を見つめ、心から言葉をつむぐ時、歌は命を持つ」との思いを込めた一首だ、とある。

 一昨年秋、高齢となった両親のそばで暮らすために、6年半暮した宮崎から仙台に移り住んだ。 離れていれば「良き娘」でいられるけれど、近くで愚痴を浴びれば「ブラックな娘」が顔を出す。 人生のいい面を捉えてきた俵さんにも、珍しく「黒い歌」が生まれた。

<白い娘と黒い娘がおりましてどちらが出るか日替わりランチ>
<切り札のように出される死のカード 私も一枚持っているけど>

7冊目の歌集を編み上げて思うのは「これまでと変わらず日常を味わって生きていけば、歌をつくり続けていける」ということで、「心から言葉をつむいでいくのには時間がかかる。けれども、心の揺れに立ち止まり、言葉を探す、歌に至るまでの時間が貴重で、その時間も含めて短歌なんだと感じています」