柳家喬太郎の「強情灸」2024/07/02 07:04

 落語研究会、TBSなのに、今回からよみうり大手町ホール、楽屋によみうりの方が挨拶に見えて、ウチでも落語会やってますのでよろしく、と。 ここでは、さん喬一門会をやっていた。 楽屋のつくりが、部屋が並んでいるのでなくて、奥に和洋室があり、そこでメイクをしてる。 これでもメイクしてもらうんで、しているか、していないかというところに、メイクさんの腕がある。 一門会では、その部屋を師匠のさん喬が一人で使ってた。 使ってたと言っても、まだ元気なんで(笑)。 感慨の持ち方で、直系の弟子が12人、孫弟子多数、なかには新作やってるのもいる(笑)、十人寄れば気も十色だ。

 強情な奴がいる。 過ぎると、悪強情(と、羽織を脱ぐ)。 具合、よくないそうじゃないか。 腰が痛くて、疝気かな。 医者に診てもらったのか。 医者は好きじゃないから。 陽気の替わり目のせいかもと、町内の奴湯で、朝から夕方まで入っていて、出たところで、ドーーンと倒れた。 みんなが水をかけてくれて、芯まで冷えた。 伊勢六のご隠居が、灸を据えたらいい、ウチにおいでよ、と。 肌脱ぎになって、背中を向けた。 これっぱかしのもの、ふた粒。 熱いのなんのって、脂汗だらだら、我慢してよ、歯を食いしばって、奥歯が三本折れた。 上に上にと据えるんだって、艾(もぐさ)をもらってきた。

 隣のかみさんに頼んで、据えてもらった。 上に上に、っていうから、背中から、頭のてっぺんを通って、おでこまで来た。 そこへ、お前が来た。 今日は、灸を休もうか。 馬鹿だねえ、上に上に…って、違うんだよ。 腹んばいに、なんなよ。

 そんなこっちゃあ、我慢する者がニッポンからいなくなっちゃう、人間、大人、男じゃねえか。 わかったよ、俺が据えてみようじゃないか。 気の持ちようだ。 艾をほぐして、丸める。 本当の灸を見せてやる。 丸めた艾で、机をドンドンと叩く。 腕にのせる、ドーデェー! のっけとくだけか。 線香、貸してみろ。 ほら、見てみねえ。 煙が上に上がる、浅間山だ。 腕に穴が開いちゃうよ、よしなよ、よしな、よしな。

 こういうのを、本当の灸ってんだ。 石川五右衛門を知ってるか、油で釜茹でになって、ニッコリ笑ったてんだ。 ホッ、フッ、フッ、フッ、火の回りがいい。 八百屋お七なんざ、火あぶりになったんだ。 石川五右衛門は釜茹でだ、油ぐらぐら煮立ってるところで、辞世の歌を詠んだ、石川や浜の真砂は尽きるとも、むべ山風は嵐というらん。 下の句が違うんじゃないか。 泥棒だから、どっから持って来てもいいんだ。 ふざけんな、ウッ、コレッ、フッ、フッ、石川や、石川や……(腕の、艾の塊を振り払う)。 俺はちっとも、熱くないけれど、五右衛門はさぞ、熱かったろう。