日立製作所、イギリス高速鉄道入札に成功するまで2024/08/18 07:20

 12日にたまたまNHKBSを見たら、『驚き! ニッポンの底力』「鉄道王国物語8」というのをやっていて、日本の鉄道技術が英国を始めとする海外で広く受け入れられているという興味深い話で、引き込まれてしまった。

 日立製作所は、世紀末の不況で1998年に最大の赤字を出し、対策を迫られていた。 鉄道事業のトップ、山口県下松市の笠戸事業所長の石津澄さんは、海外にマーケットを求めることを提案したが、社長以下役員は「ボートで鯨を釣るようなものだ」と全員反対、黙認という形でイギリスの高速鉄道参入の挑戦を始める。 鉄道は国の重要なインフラであり、国の文化の違いもあり、「不可能」を可能にするような難事業だった。 世界の鉄道事業は、カナダのボンバルディア、フランスTGVのアルストム、ドイツのシーメンスの三社が多くを占めていた。 日本の会社の挑戦は「ペーパートレイン」、「絵に描いた餅」と言われた。

 イギリスの高速鉄道の入札で二度失敗。 三度目の入札で、ロンドンから英仏海峡トンネル入口のフォークストンまでの高速鉄道用車両Class 395の受注に成功する。 この成功の要因には、人事の転換があった。 アルストムの営業職だった当時39歳のアリステア・ドーマーさん(現・日立製作所副社長)を採用したのだ。 ドーマーさんは来日して、笠戸事業所を視察、製作中の車両に貼られた小さな付箋から品質管理の高さ、丁寧な仕事に感心して、入札活動に二つの改革を実施した。 (1)日本の技術は素晴らしいのだが、アピールの仕方が拙く、メリットを伝えられなかった。 ドアの開閉では、多く乗れるのか、時間短縮できるか、など、「定時運行」「安全性」を強調した。 (2)電車の心臓、制御装置の優秀さを示すため、イギリスの中古電車に搭載して、ほとんど持ち出しで一年半にわたって実験、高い信頼性を認めさせた。 担当したのは、稲荷田聡さん、現・鉄道ビジネスユニット最高技術責任者だった。

 2005年6月、Class 395の入札に成功、2009年12月に運行開始した。 ロンドン-フォークストン間の乗車時間は1時間23分から37分にまで短くなり、通勤前に子供と朝食を一緒にとれると、イギリス人に生活の質の向上をもたらして、「定時運行」「安全性」が大好評だった。 2010年にはイギリスで大寒波があったが、雪の中を走ったのはClass 395だけで、注目を浴びた。 2017年には、Class 800運行開始、王室の御召列車Queen Elizabeth IIに採用された。 20年間で、日立製作所の高速鉄道用車両は、イギリスの交通にはなくてはならぬものになったのである。