桂吉坊の「兵庫渡海鱶魅入」 ― 2024/08/28 06:36
兵庫舟という旅の話で、上方の長い外題は「ヒョウゴゥノトカイフカノミイレ」と読む。 関西から来ると、読売というのが気になる、ホールの楽屋まで覚えられないような通路で案内されたが、阪神ファンだと悟られないようにしていた。 お昼頃の新幹線に乗れば、この時間に間に合う。
喜六と清八が登場、いつ働いているのかという二人の旅、東ではなく、西へ西へと行き、金毘羅参りの帰り、兵庫の鍛冶屋町の浜から船に乗る。 これ、海かい、池かと思う、一面青畳を敷いたような、縁(へり)のない凪だ。 船に乗れば、早く大坂に帰れる。 板子一枚下は地獄というぞ。 早く、乗れ! (ドン、ドン、ドンと太鼓が鳴って)、突かれるようにして、船に乗る。 もう、乗ってる。
地獄とか、死ぬとか、言うな、船頭が嫌う。 お連れさんは、船がお嫌いですか、船に酔いやすいのでしょう、船端を三べん舐めるといい。 (舐めて)フッ、と吹き、砂が入った。 清やん、おおきに。 船が出た。 混んで来たな、足を伸ばせない。 お手繰りで、荷物を集めて、足と足を互い違いに伸ばすと、ゆったり座れます。 なるほど。 踵(かかと)がザラザラしてるな、草鞋脱ぐの忘れてる。 ウロウロするな! 大和の薬屋の荷物から、蛇がいなくなったんで。
櫂から、艪に替る。 船頭は、肌が赤銅色、艪で漕ぐ。 沖合に出ると、帆は八分目、ふくれた餅みたいになって、船が走り出す。 「船頭ォ楽して、帆ォしんど」。 同じ船に乗り合わせたのも、なんぞの縁、仰山に人がいて、在所はどちら。 和州、大和。 島の初めは、淡路島。 紀州、和歌山五十五万五千石。 泉州、堺。 三州、三河。 芸州、安芸国。 因州、因幡鳥取。 道州、大坂。 道州? 道頓堀で。 兄さんは。 堂州、堂島、丼池(どぶいけ)。 ゴウ州。 江州、近江で? オーストラリア。 住めば、都だ。
なぞかけを、やろう。 清やん、一つもろた。 食い物じゃない。 何なら何とかけて、あげましょ、何と解く、心は、というのだ。 破れた財布にお金が一杯、あげましょ。 近江八景、瀬田の唐橋と解く。 その心は、膳所(ぜぜ)が見える。 新しい財布にお金が一杯、あげましょ。 播州、書写山。 その心は、膳所が見える。 とても見えないだろう。 海老の皮剥いて、粉振って、あげましょ。 油だろ。 その心は、天ぷら。 タコ糸のもつれたん、木綿糸のもつれたん、絹糸のもつれたん、あげましょ。 こんがらがった。 その心は、解けません。
イロハのなぞかけを、やろう。 ロの字。 野辺の朝露。 ハの上にある。 ハの字。 金魚屋の屋台。 ニの上にある。 ホの字を、おくれいな。 あげましょ。 ふんどしの結び目。 ヘの上にある。
この船、ちょっとも動いていませんよ。 あそこの松の木、動いていない。 船頭、動いてないのは、本当か。 気がついたか。 実は、悪い鱶(ふか)がいて、魅入られた人間が、海に入らんと、動けない。 一人一つ、何か海に放り込んで、流れればよし、沈めば、その人が鱶に魅入られたんだ。 そちらさんから、何か一つ。 惜しいが、旅日記を。 ひい、ふう、み。 流れました。 矢立を、ひい、ふう、み。 流れました。 手拭を。 流れました。 喜ィ公、ひい、ふう、み。 沈んだ、沈んだ。 何を投げたんだ。 土産に買った文鎮を投げた。 それは、最初から沈むよ、軽いものを投げろ。 髪の毛。 だめだ。 扇に、髪の油をつけて、ひい、ふう、み。 流れた、流れた。
巡礼の母子連れ、娘の菅笠が海中に沈んだ。 大騒ぎになる。 胴の間で、昼寝をしていた男が、目を覚まし、俺が掛け合ってやる、そこのけ、そこのけ。 煙草の火をつけ、プカーーッ、プカーーッ、とやって。 鱶(フカ)ーーッ、わかったか。 へい、ワタシでやす。 大きく、口を開けろ、もっと、もっと、大きく開けなくっちゃ。 その口に、煙管を投げ込む。 鱶は、煙草が嫌い、もんどりうって海中へ消えた。
動いた、動いた、船が動いた。 助かったぞ。 あの人、鱶でも、鮫でも、何でもやっつけるそうで。 商売は? なんでも、蒲鉾屋さんだそうで。
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