槇文彦さん、谷口吉生さんと湘南藤沢キャンパス(SFC)2024/10/23 07:01

 『三田評論』10月号、小林博人教授の追想「槇文彦さんと慶應義塾」で、改めて知ったことが多かった。 小林博人さんは、槇文彦さんの設計した湘南藤沢キャンパス(SFC)の大学院政策・メディア研究科教授で、槇さんの薫陶を受けた建築家、さらには娘婿だという。

 槇文彦さんは、谷口吉郎さん設計の慶應義塾幼稚舎の新校舎で四年半を過ごした。 普通部を経て予科で工学を学び、慶應には建築を教える学部がなかったので、東京大学に進んだ。 東大卒業後、渡米したハーバード大学院で修士号を取得、同大学院とワシントン大学で教鞭をとった。 谷口吉郎さんの子息、建築家の吉生さんは義塾出身でハーバード大学院で学び、そこで教鞭をとる槇さんと知り合った。 父の谷口吉郎さんは、まだ30代前半に、当時義塾の理事を務めていた槇智雄氏(文彦さんの伯父)からの依頼で幼稚舎を設計したという経緯がある。 それに遡り、槇武氏(文彦さんの祖父)の本郷の家に、吉郎さんは東大学生時代によく通っていたという。 親子二代にわたる槇家と谷口家の繋がりを基礎に、文彦さんと吉生さんの関係は深い親交へと発展していく。 二人の定期的な会食会は三百回を超え、それぞれの建築が竣工する度に、二人だけの見学会を催したという。

 1980年代からSFCの計画が進むと、槇文彦さんは大学キャンパスとその建築群を、そして谷口吉生さんは中等部・高等部校舎を設計し、二人のコラボレーションが実現した。 槇さんは、アメリカで教えていた時代から提唱していた「群造形」という分散配置を基本とした建物構成をとった。 学生の自由闊達な利用を想定した空間は、彼ら二人が義塾で過ごした時間に学んだ教えが、SFCという新しいキャンパスに実装されたと言うことができるだろうという。 小林博人さんが通うキャンパスでは、建物の内外に用意された様々な場所が、まるで田園の中の都市空間のように、学生たちの豊かな出会いが日々起こっているそうだ。

 SFCには2022年、槇文彦さんからの資料の寄贈に基づく「槇アーカイブ」が設立された。(娘さんが語る、槇文彦さんの本棚<小人閑居日記 2024.7.21.>参照。なお、槇文彦さんについては、この<小人閑居日記>の7.6~11、7.18~21に書いている。)