五街道雲助の「五人廻し」後半 ― 2024/10/28 06:50
エーーッ、黄瀬川さんへ、黄瀬川さんへ。 廊下を通行の若い衆(し)さん、ホー、ホー、ホー、こちらこちら、手の鳴る方へ。 もちりん、入り給え、清め給え。 向うの野蛮人、ポンツク野暮の極み。 あなたは、角が取れてまあるい、貰い物の角砂糖みたい。 若い内に、女を泣かせたこともありやしょう。 品があって、相がいい、ヒンソウ。 遊びの達人に伺いたい。 いわゆる閨中において、側に姫がいた方が愉快であるか、いない方が愉快であるか、そのへん伺いやしょう。 傾城、傾国に、罪なし、とは吉田兼好も言っている。 鶏鳴、暁を告げる頃、ここは一つ、君のお身体を拝借し、傍に寄り給え、葭町の四枚目、五枚目ぐらいにはなろう、その手を握らせ給え。 ハーー、ハーー、ハーー、ハーー!
エーーッ、黄瀬川さんへーッ。 何です、畳を積み上げて、牢名主じゃないんだから。 失せ物を探しておるのだ、黄瀬川がいなくなった。 これ、給仕はおらんか、小使おらんか。 前へ進め、前へ進めーーッ! 面を上げよ。 年齢は? 四十二。 日本男児が、四十二にもなって、男女が抱き寝をする蒲団を運搬しておって、何が面白い。 貴様、賤業婦の奴隷か、馬鹿者奴が! 御用は? 物の黒白をつけよう、人跡絶えたるこの部屋に、枕が二つある、一つはボク、もう一つは何人が使用する枕か? 敵娼(あいかた)の、あのお妓(こ)さんで。 あのお妓さんにも、このお妓さんにも、宵からチラリとも見えんではないかッ。 目的は那辺にあるか、女郎買いの本分を何と心得るか、逆賊め。 質問がある、領収書に台の物のほかに、娼妓揚げ代金とあるが、有名無実ではないか。 すみやかに玉を返してもらいたい。 ほどなく、いらっしゃいますので。
若え衆さん、ちょっくらこっちへ来て(と、手を叩き)、ちょっくらコケコ、コケコ! ニワトリだね。 あんまり人を馬鹿にすんな、黄瀬川が手を引いて登楼(あげ)て、ナニ取れや、カニ取れやって言って、いざとなると、顔を出さねえ。 客を振るなら、田舎者を振れ。 わしはイドっ子だ、日本橋の在の、肥担桶(こえたご)だって真鍮の箍(たが)がはまってんだ。
ドスコイ、ドスコイ! お客様、部屋で四股を踏まれては困ります。 柱で鉄砲をやって、首根っこを引きちぎるぞ。 お客様、勝負はついています。 もう廻しを取られて、振られております。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。