柳家小里んの「言訳座頭」後半 ― 2024/10/31 07:02
どっから行くのか。 米屋、大和屋。 町内で長い、しみったれで、療治を頼まれたことはない。 今晩は! 旦那にお話が…、後ろの甚兵衛さん、お宅に掛けがあるそうで。 大道商売で、返さなきゃあならない金が集まらない。 春まで待ってもらいたい。 昼間、店の者が行ったら、夜分間違いなく、と言われた。 甚兵衛さんには、何か言わないで、頼まれたからワシが来た。 真に受けるトンチキはない。 貧乏人から無理に取ることはない。 ウンと言ってくれるまで、座っている。 しょうがないな、待ちますよ。 甚兵衛さん、よくお礼を言って。
今度は和泉屋、薪、炭。 ちょくちょく療治に呼んでもらう、驚いちゃ駄目。 今晩は! 何だい、市っつあん。 薄情、不人情なことを、してもらっちゃあ困る。 こないだの炭は、跳ねるね。 あっちは目が悪いから、湯を沸かそうと思ったら、畳が焦げてる、慌てて土瓶を蹴飛ばしたら、火鉢に当たって割れ、水がジュとなって消えた。 畳は新しくした。 ついちゃあ、後ろの甚兵衛さん、お宅の掛けをお返しできない。 ワシが頼まれて来た、春先まで待ってもらいたい。 待ちませんよ、商人(あきんど)だよ、お前さんが間に入って、何か言うな。 畳と土瓶は私が払う、でも借金は払え。 頼まれて来たワシの顔が潰れる、とても生きちゃあいられねえ。 意気地(いくじ)がないから、自分じゃ死ねない、殺せ、殺せ! 立て、立て! 爺イ按摩が、今、殺される。 待ちますよ。 甚兵衛さん、よくお礼を申し上げて。 何で、突っ立っているんだ、どけ、どけ! 大きな声を出しゃあ、人が集まる。
魚金、魚屋。 困ったな、気が荒い。 親方にお話があります。 この町内に三十年、甚兵衛さんも十年ほど住んでいる。 その甚兵衛さんが、患って寝ている。 かみさんも具合が悪くなって、夫婦で寝ていて、医者に診てもらう金もない。 おかゆも食ってねえ。 米を買う金がなくて、この四、五日、一文も無い。 重湯を持って行ってやったら、二人で食ってる。 魚金さんに借金がある、死んでも死に切れないって、言うんだ。 ワシは、魚金さんは江戸っ子だよ、勘定なんか待って、薬代だってくれるよ、って言ったんだ。 ウチも問屋が現金で、困るんだ。 借金は、待ってあげますよ。 だけど、甚兵衛さん、三日前荷物を担いで仕事に出たみたいだった。 三月には、必ずお払いします。
寒いね。 除夜の鐘かい。 富の市さん、あと二軒、お願いします。 それは出来ないよ、早くウチに帰って、自分の借金の言訳をしなきゃあならない。
小人閑居日記 2024年10月 INDEX ― 2024/10/31 07:21
箱訴の決行、講釈の場を失った文耕が二度目の御前講釈<小人閑居日記 2024.10.2.>
文耕、夜講で金森騒動を語り、お縄につく<小人閑居日記 2024.10.3.>
評定所の文耕尋問、「公儀を畏れず」と吹き込んだ者は?<小人閑居日記 2024.10.4.>
田沼意次、小伝馬町の牢屋敷で文耕に会う<小人閑居日記 2024.10.5.>
金森騒動に関する判決、文耕は引き廻しの上、獄門<小人閑居日記 2024.10.6.>
一月晦日、里見は田沼に呼ばれて、吉原の俵屋へ行く<小人閑居日記 2024.10.7.>
沢木耕太郎さん、郡上一揆と馬場文耕を書くきっかけ<小人閑居日記 2024.10.8.>
石破茂さんが慶應だとは知らなかった、佳子夫人も同級生<小人閑居日記 2024.10.9.>
佐伯啓思さんの「自民党は保守なのか」<小人閑居日記 2024.10.10.>
米国流「リベラルな価値」と、日本人の「潜在的価値」<小人閑居日記 2024.10.11.>
有田哲文記者の「福沢諭吉が陥った偏見の罠」<小人閑居日記 2024.10.12.>
「偏見の罠」という「ラベルの害」<小人閑居日記 2024.10.13.>
画家・秋野不矩さんを知っていますか<小人閑居日記 2024.10.14.>
秋野不矩先生との出会いは、川端知嘉子さんの宝<小人閑居日記 2024.10.15.>
「冷(すさ)まじ」と「浮草紅葉」の句会<小人閑居日記 2024.10.16.>
高浜虚子『斑鳩物語』の法起寺三重塔<小人閑居日記 2024.10.17.>
三宅島に遠島された英一蝶<小人閑居日記 2024.10.18.>
英一蝶の元禄綱吉の時代から、馬場文耕の家重の時代へ<小人閑居日記 2024.10.19.>
英一蝶はなぜ、幕府の怒りに触れたのか<小人閑居日記 2024.10.20.>
短信 終の棲家<等々力短信 第1184号 2024(令和6).10.25.>10/21発信
「英一蝶―風流才子、浮き世を写す―」展を見て<小人閑居日記 2024.10.22.>
槇文彦さん、谷口吉生さんと湘南藤沢キャンパス(SFC)<小人閑居日記 2024.10.23.>
槇文彦さんと谷口吉生さんの対談「慶應建築の系譜」<小人閑居日記 2024.10.24.>
柳亭市童(いちどう)の「彌次郎」<小人閑居日記 2024.10.25.>
柳亭小痴楽の「佐々木政談」<小人閑居日記 2024.10.26.>
五街道雲助の「五人廻し」前半<小人閑居日記 2024.10.27.>
五街道雲助の「五人廻し」後半<小人閑居日記 2024.10.28.>
桂吉弥の「お玉牛」<小人閑居日記 2024.10.29.>
柳家小里んの「言訳座頭」前半<小人閑居日記 2024.10.30.>
柳家小里んの「言訳座頭」後半<小人閑居日記 2024.10.31.>
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