『節用集』とは、どういうものか ― 2025/02/19 07:21
2月9日『べらぼう』第6回は「鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」で、『節用集』の偽版(海賊版)を出していた鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が摘発された。 その『節用集』とは、どういうものか。 2011年に『萬延元年 横浜(港崎)細見』の写真版のコピーと、その解読版を送ってくださった方から、2013年に『永代節用無盡蔵』を読み解き「手書き」の本にしたものを頂き、2013(平成25)年6月25日の「等々力短信」第1048号「 江戸の「辞典・小百科」を読み解く」に書いていた。
等々力短信 第1048号 2013(平成25)年6月25日 江戸の「辞典・小百科」を読み解く
「等々力短信」の読者に、毎月必ず返事を下さる方が、三人いる。 そのお一人、田中朋子さんが私家本『永代節用無盡蔵』を贈って下さった。 驚くべき労作である。 古文書、くずし字の解読に堪能な田中さんが、江戸中期の寛延3(1750)年刊、宝暦2(1752)年改訂の原書を、読み易いように、文字部分は全部「手書き」して228頁の本に仕立てた。 コピーして貼り付けているのは、絵や見出しの内、ごく一部分だけだ。
世の中にはくずし字で書かれた史料が山ほどあるのに、解読されているものはわずか数パーセントと聞く、埋もれている史料がもったいないという強い思いが、田中さんを突き動かした。 私は昨年10月日吉の公開講座で、絵本・絵巻の字の部分は、百年前までは子供でも読めたのに、今は三千人しか読めず、一説に意味の解る人は数十人しかいないと、石川透慶應義塾大学文学部教授に聞き、反省したが、そのままである。
田中さんは関係の書簡や文書を解読して、1998年12月の『福澤手帖』99号に「サー・エドワード・リードの来日と慶應義塾訪問―市来七之助と福沢諭吉―」を書かれ、たまたまその号に私の「CD‐ROM版「百科事典」で「福沢諭吉」を検索する」が出て、編集担当の岩波書店OB竹田行之さんに紹介されたのが、ご縁の始まりになった。
「節用集」は、室町時代に始まる「文字の辞典」だ。 『永代節用無盡蔵』になると、「文字の辞典」だけでなく、「小百科事典」にまで内容が広がっている。 七福神図伝に始まり、内裏、全国、三都(京・江戸・大坂)の絵図、公家鑑、武鑑、武具図、馬具図、諸礼図、武将略伝、百官名尽などから、手相、不成就日、願成就日、万年暦、男女相性、地震之占など易断、囲碁・将棋作物図、万病妙薬集、料理指南、献立書、朝鮮仮名(ハングル)、古銭宝銭図、ほか計60項目、それぞれ興味尽きないものがある。
【小野篁(たかむら)歌字尽】の初め、「椿つばき 榎ゑのき 楸ひさき 柊ひらぎ 桐きり はるつばき なつハゑのき あきひさき ふゆにひいらぎ をなじくハきり」(三遊亭円生のマクラに出て来た)、「栢かや 柏かしハ 松まつ 杦すぎ 檜ひのき ひやくハかや しろきハかしわ きミハまつ ひさしきハすぎ あふハひの木よ」。 【男女相性之事ならびに歌】の一例、「▲男土女火 大によし 子五人 いしよく共おほし 何事も心のまゝ也 むびやうにして命長し 地神をまつるべし 歌に あら嬉しいとゝたのしき我身かな万の物にとぼしからねハ」。 【万病妙薬之記】より、「一切の痔(ぢ)ハはれいたミ下血するに山椒(さんせう)の目(め)粉(こ)にし用ゆ」。 【月次料理集】「正月汁之分」、「つる うど ゑのきたけ ねぶか」「つる ねいも きのこ うど」「かも ごぼう とうふのうば ついぐし」「一しほたい ちさ かぶら」(ちさ=「ちしゃ」レタス)。
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