松柳亭鶴枝の「ろくろ首」2025/05/15 07:13

 柳亭市童改メ松柳亭鶴枝、おでこが広い、落語研究会は二た月にいっぺん太鼓を叩いていた、3月21日真打昇進、松柳亭鶴枝は四代目、先代は尾藤イサオさんのお父さんで、78年ぶりの復活、ということは、それほどの名前ではない、目出度い漢字が並んでいるので、名前だけでも覚えてほしい。

 松公は、モノに動じない、置かれている状況が分かってない。 松公、何をガタガタやってるんだ。 伯父さんちでも、ちゃんと挨拶をしろ、こんにちは、と。 こんにちは。 今日は何だ、何か用か?  兄貴がね、33になる。 3年前にかみさんをもらって、赤ん坊が生まれた。 赤ん坊が大きくなってきて可愛い、三人でちゃぶ台で飯を食っていて、おかみさんが兄貴のことを「ちょいと、お前さん」「あなたやー」なんて言う、やんなっちゃうよ。  それが、どうした?  アタイは、お袋と二人だ、お袋は飯を食うと総入歯をはずして茶碗に入れて洗濯する、その水を飲むんだ。 口を開けると洞窟のようになる、その口で「あなたやー」なんて言わない。 アタイも25になる。 まだアタイなんて言ってるのか。 ボク。 ボクニンジン。 私も25になるから、兄貴に負けない気になって……。 何だ、はっきり言え。 はっきり、言うぞ、「ウーーッ、おかみさんが、もらいたい! おかみさんが、もらいたい! おかみさんが、もらいたい!」 わかった、わかった。 婆さん、そこでひっくりかえつて、笑ってるんじゃないよ。 兄貴は、手に職がある。 どうやって、かみさんを食わせるんだ? 箸と茶碗で。 男、一人前でなけりゃあ、駄目だ。

 お前、岩田のご隠居のところで、天丼を五杯食ったそうだな。 掃除の手伝いに行ったら、もう終わっていて、みんなで天丼を食っていた。 アタイも一つ食べて、まだ残ってるのを、食べられるかと言われたので、ペロッと五つ食べて、お小遣いももらった。 その小遣いでモリ三枚食って、家に帰ったらお袋がお茶漬してたんで、シャケでお茶漬を食った。 すると、お腹が弾けた。 フンドシの紐が切れたんだ。 お前、寝坊なんだってな、人間まどろむは愚なり、という。 それで、イギリスには、ネルソンて人がいるんだね。

 あなた、松っちゃんを、お屋敷にどうでしょう。 伯父さんの知り合いに、大きなお屋敷のお嬢さんがいて、乳母(おんば)さんと女中が二人、五人暮らし、大変な財産がある。 お前、そこへ行くか。 ただ理由(わけ)がある。 お嬢さんに、お病(やまい)がある。 夜、寝てからだ。 寝小便か、寝小便ならアタイもする。 25になってもか。 お屋敷の一番奥の間で、丑三つ時、2時頃、首が伸びて、金屏風を越えて、行灯の油をなめる。 面白い、ドクドックビだな。 そういうのは好かないけれど、夜中だけだろ、アタイは寝たら起きないからいいや、「伸びろ、伸びろ、天まで伸びろ」。

 連れて行って、来よう。 乳母さんが丁寧な人なんだ、今日はお天気様で結構ですというような人だから、「さようさよう」と言え。 亡くなられたご両親様もお喜びになるでしょう、と言ったら、「ごもっともごもっとも」と。 私も寄る年波でとか言ったら、どういたしましてという意味で、「なかなか」と言うんだ。 稽古をして、行こう。 毬に紐をつけ松公の下帯に結んで、信号のようなものだ、一回で「さようさよう」、二回は「ごもっともごもっとも」、三回は「なかなか」と、伯父さんが引っ張って合図することにして、出かける。

 先方へ行き、乳母さんと「なかなか」「さようさよう」と挨拶、「あとは、なかなか」と言う。 お庭をお嬢さんがお通りになるのを待つ、広い庭だ、鬼ごっこにもってこいだ。 猫が来た、柔らかくて、旨そうな猫だ。 この猫も、首が伸びるんか。 膝から、猫を下ろせ。 綺麗な人だなあ、歩いてるよ。 兄貴のおかみさんより、ずっと綺麗だ、あの人が「あなたやー」なんて言うのかな。 「さようさよう」「ごもっともごもっとも」「なかなか」、四回は何ていうんだっけ。 毬の紐に、猫がじゃれていた。

 吉日を選んで、ご婚礼ということになる。 寝床に入った松公、夜中に目が覚めた。 時計が、キーーン、キーーンと鳴った。 二つだ。 「ごもっともごもっとも」だ。 お嫁さんは綺麗な人だなあ、でも寝相が悪い。 頭をずらすと、アーーーッ、首がァ! 

 トントン、トントン、トントン! 伯父さん、開けてくれぇ! アーーーッ、伸びた、伸びた、伸びた! 夜中に目が覚めたら、首が伸びて、金屏風を越えて、行灯の油をペロペロなめた。 あんなものは駄目だ、お袋の所へ戻る。 お袋さんは、明日はどんないい知らせがあるかと、首を長くして待っているぞ。 あーーあ、家へも帰えれねえ。