再び山本周五郎にはまる2019/01/07 07:10

 第一回は、今日7日の午後3時までだが、パソコンの「ストリーミングを聴 く」や、スマホの「らじるらじる」「聴き逃し」で聴けるNHKラジオの「朗読 の時間」、「山本周五郎作品集」がおすすめだ。 暮から新年にかけて、寝しな に聴いて、すっかりはまってしまった。 文学座の俳優・田中宏樹さんの朗読、 「艶書」「金作行状記」「本所霙(みぞれ)河岸」の三作品である。 物語の意 外で巧な展開、人間味を感じさせる登場人物たちに対する暖かい視線、そこは かとないユーモア、いかにも山本周五郎らしい魅力に溢れている。

 昨年、末盛千枝子さんが新潮社の『波』に連載された「根っこと翼・皇后美 智子さまに見る喜びの源」については、9月7日から三日間の当日記に記した。

「根っこと翼・皇后美智子さまに見る喜びの源」<小人閑居日記 2018.9.7.>

皇后様と島多代さん・小泉信三さん<小人閑居日記 2018.9.8.>

皇后様、文学・芸術の豊かな人脈<小人閑居日記 2018.9.9.>

 そこに書けなかった話に、渡邉允さんという侍従長のエピソードがあった。  渡邉允さんは外交官だが、1996(平成8)年から2007(平成19)年まで侍従 長を務めた。 末盛さんは連載の第3回(3月号)で、渡邉允さんが外交官と してワシントンに駐在していた時期に、島多代さんもあちらにいて親しかった、 皇后様の『橋をかける』のロシア語版が出版され、ロシア大使館で盛大な出版 記念会が催された時にも、渡邉允侍従長が皇后様の代理として出席してくれて 有難かった、という。 そして、あの一連の時期の侍従長が渡邉さんでなけれ ば、インドでのビデオの基調講演も、皇后様のバーゼル行きも実現が難しかっ たのではないかと思っている、と書いている。 さらに、一度何かの時に渡邉 さんにそう申し上げたら、「そうかねえ、そんなことはないと思うよ」と、さり げなく言っておられた。 そう書いた後、末盛さんは、話をこう結んでいた。  「渡邉さんはアメリカを離れる時に、山本周五郎の『墨丸』を英訳し、冊子に して、友人たちに置いてきたという。」

 それを読んだ時、私はさっそく、「墨丸」を読み直すために、書棚の『小説 日 本婦道記』(新潮文庫)を取り出したのだった。

柳家権太楼の「文七元結」下2019/01/06 08:24

 文七は、どこへ行ったんだろう。 もう、みんな寝てくれ。 文七が戻って 参りました。 こんな晩くまで、お前どこへ行っていたんだ。 小梅の水戸様 で五十両、集金して参りました。 文七、こっちをお向き。 お前はいい男な んだが、碁が好きだ。 今日も、中村様と碁を打っただろう。 お前が帰った 後、碁盤の下に五十両があった。 中村様が届けて下さったんだ。 それなの にお前も五十両持って来た、〆て百両だ。 何だ、これは? 番頭さん、大変 です、娘が瘡(かさ)を掻きます。 お前に、娘はいないだろう。 お金を盗 られたと思って、吾妻橋で身を投げて死のうとしたら、女の着物を着た職人風 の人が、私を助けてくれて、五十両下さったんです。 十七になる、お久さん という娘さんが吉原の何とかいう店に、身を売ったお金だそうで、そのお金を 私にぶつけて、逃げて行ってしまったんです。 いい話を、聞かせてくれた。  盗って逃げるというのはあるが、ぶつけて逃げるとは、江戸っ子だ、とても私 たちのような商売人には出来ることじゃない。

 それで、お前、その方の処とお名前を聞いてないのか。 何という馬鹿だ。  文七、吉原の店の名を聞いたのか。 聞いたんなら、思い出すだろう。 五十 両を即座に出せるってのは大店、大籬(まがき)だ、松葉屋、半蔵松葉、玉屋、 玉屋山三郎(さんざぶろう)、三浦屋、佐野槌。 番頭さん、もう一度。 松葉 屋、半蔵松葉、玉屋、玉屋山三郎、三浦屋、佐野槌。 そう、佐野槌です。 旦 那様、佐野槌でございます。 それはよかったけど、番頭さん、あんた吉原の こと、ずいぶん詳しいんだね。

 お久が拵えてくれたお金を、どこへやったんだよ。 何度も言ってるじゃな いか、死ぬっていうから、吾妻橋で、その野郎にくれてやったんだ。 お前さ ん、どこで、すったんだよ、私が一両でも、二両でも、取り返してやる。 わ からねえよ、どこの誰だか。 人が来てるぞ。 お前は屏風の裏に隠れていろ、 尻丸出しじゃあ、みっともない。 ちょっと、待ってくれ! 

 今、開けちゃあ駄目だ。 開けたら、目の中に手を突っ込んで、掻き回す。   長兵衛親方のお宅は、こちらですか。 横山町三丁目の鼈甲問屋でございます が、こちらの親方が私どもの若い者を助けて下さった。 親方、この若者に覚 えはございませんか。 ゆんべ、命を助けて頂いた文七でございます。 お前 だ、よく出て来てくれた。 幕が閉まらねえところだった。 親方のように清 い行いをして下さる方はおりません、すんでの命を助けて頂いて、有難うござ いました。 文七は碁が好きで、集金を碁盤の下に置き忘れてきたんです。 何 を、この野郎、お前んとこは、それで済む、俺んとこは、ゆんべから寝てない んだ、冗談じゃねえ。

 つきましては五十両のお金は、お返しいたします。 江戸っ子が一度出した ものだ、受け取れねえよ。 その若え者も、いずれ店を出すんだろうから、そ の足しにしてくんねえ。 そうは参りません、お収め下さい。 (枕屏風の陰 の女房に引っ張られて)わかってるよ。 みっともねえことは、したくねえん だけど、こっちもいろいろ大変なことがあってな、じゃあ、ありがたくもらっ とくよ。

この者は、私の遠い親類でして、親方には、命の親として、この者の後見に なって頂きます。 私共も、親方と親類付き合いをさせて頂きたい。 お金を 借りに行くかもしれねえよ。 角樽、酒屋の切符、それと肴でございます。 親 方のお気に召すかどうか。 一丁の駕籠が路地に入ってきた。 垂れを開けて、 娘のお久が出て来た。 佐野槌の女将が、腕によりをかけて、絹づくしに着飾 らせ、綺麗に化粧をしている。 こちらの旦那様に身請けをされて、戻って参 りました。 この肴、お気に召してでしょうか。 ありがとうござんす。 お っ母さんは? 腰から下は、何にも穿いてないけれど、我慢できずに飛び出し てきて、親娘三人抱き合った。

 この文七が、店を出す時には、お久さんを頂けますでしょうか。 あげるよ、 あげるよ、一緒に、お袋も付ける。

柳家権太楼の「文七元結」中2019/01/05 07:15

 親方、表から入って下さい。 この形(なり)じゃあ。 私の羽織を、どう ぞ。 女将さん、長兵衛親方が参りました。 こっちへ入って、お座り。 ず いぶんご無沙汰だね、忙しそうだね。 親方、この娘(こ)を知ってるかい。  お久、どうしてここにいるんだ。 黙ってくれ、お前、ゆんべ家にいたんかい、 私は二、三日、風邪引いててね、寝ようと思ったら、この娘が来た。 小さい 時から、お前さんの仕事について来て、いい子だと思っていたら、いい娘にな った、気立がいい。 私のような者でも、お金を出して下さいますか、そして、 お父っつあんに意見をしてほしいと、涙ながらに訴えるんだよ。 お前さんに、 この娘の半分でも了見があったらね。 馬鹿は直らないのかい。 ついつい深 間にはまりこんで、にっちもさっちもいかなくなりまして、この通りです、助 けてくんねえ。 いったい、いくらいるんだい。 五十両。 持ってきな、証 文はいらないよ、だけどこの娘を預かる。 長兵衛さん、いつ返してくれるか ね。 十五日過ぎたら。 馬鹿言うんじゃないよ、本当の事をお言い。 三月、 待ってくれ。 こうしよう、半年、二両でも、三両でもいい、お前さんがきち んと働いてくれれば。 だが馬鹿な真似をしたら、私は鬼になる、この娘を店 に出すよ。 私を恨むんじゃないよ、みんなお前が悪いんだ。 それ、懐にし まって、叱言は叱言だ、一杯やるかい。 とんでもない、すぐ帰って、お久の ことをおっかあに話さなきゃあならない。 お父っつあん、おっ母さんのこと を大切にして、打ったり蹴ったりしないで。 女将さん、お久の事をよろしく お願いします。

 気が付くのが遅まきだけど、やり直そうと、長兵衛が、吾妻橋までやってく る。 欄干で手を合わせている、身投げだ。 気をそらしてやるのがいい、横 っ面を一つ張り倒す。 痛い! 怪我でもしたら、どうするんです。 お前は身 を投げようとしていたんじゃないか。 若いんだな、店者か。 どうしても死 ななきゃあならない訳があるんです。 何があった、若えの、面あげろ。 話 したところで、何がどうにもなるもんじゃないんで。 女の着物を着た、職人 風情だけれど、お飾りの下を、たくさん通ってきているんだ、若えの、何があ った、話してみろ。 私は横山町三丁目鼈甲問屋の若い者で、小梅の水戸様で 集金した五十両を持って帰る途中、枕橋のところで、風体のよくない男がぶつ かった。 すると、懐の五十両がなかった。 盗られたんだ、そりゃあ。 そ れで身を投げて、死のうと。 偉えな、と言いたいけれど、よく謝って、月々 の給金で返したらどうなんだ。 子供の時から、世話になっているご主人で。  相談する親や親類はないのか。 私は天涯孤独で、誰もいません。 じゃあ、 俺が一緒に行ってやろう、頭を下げようじゃないか。 それは申し訳ない、ど うぞ、お出でになって下さい。 誰か、来ないかな、この野郎を譲っちゃうん だけどな。 よく探してみろ、命を粗末にするな。 おう、ものは相談だが、 二十両じゃ駄目か、どうしても五十両なきゃあ駄目か。 オッ!(と、飛び込 もうとする若者を押え) 命を粗末にしちゃあ、いけねえんだ。 何とか、なら ないのか。 嘘じゃないんだろうな。 嘘で、死ねますか。 すまねえ、若い の、ここに五十両ある。 あなたに頂く義理はない。

 お前にやる道理はないんだよ、五十両の訳を聞いてくれ。 この寒空に、こ んな形(なり)なんで、盗んだと思われると、悔しいから。 俺が博打に凝っ てな、にっちもさっちも行かなくなって、十七になる娘のお久が、吉原(なか) の佐野槌に身を売った身代金なんだ。 半年経って、返せねえと、娘は客を取 らなきゃあならないんだ。 でも、お前と違って、命を取られるんじゃない。  お不動様でも、金毘羅様でもいい、娘が悪い病気を移されて瘡(かさ)を掻く ことのないよう、達者でいられるように、祈ってくれ。

 痛い! 逃げて行っちゃった。 言い訳ができないから、石ころをぶつけて …。 アッ、本当にお金だ、五十両ある。 親方、ありがとうございます。

柳家権太楼の「文七元結」上2019/01/04 08:23

 外国の方が沢山いる、浅草雷門は外人だらけ。 本物の外人、見た目が外人、 この前までと全く違う。 しゃべりたい。 私も何度か外国へ行ったけれど、 行くと無口になる。 フィリピンのセブ島あたりだと、何となくコミュニケー ションが取れる。 ひとりでニューヨークへ行った若い頃、ヤンキースタジア ムに行きたかった、松井が出る、フロントの人に地下鉄で行きたいと英語でし ゃべった。 フロントマンがペラペラペラペラ、訳分かんないから、サンキュ ーって、言った。 4日間、ホットドックしか食ってない。 英会話出来たら、 どんなに楽しいか。  今90の金馬師匠が60の時、4人でレストランに行って、いきなりはステー キかとメニューを見て頼むと、ステーキみたいなものが出て来た。 6人連れ の韓国の人がいて、何とかスミダと、いろんなものを注文した。 その向こう の勘定が、みんなこっちに付いている。 金馬師匠、お笑い三人組のあの師匠 が、ヘイ、カモン、ボーイ、トラブル、トラブル、ディス、ワン・テーブル、 ザット、ワン・テーブル、別々、それが一緒、ノー、ノーよ。 ワン、ツー、 スリー、フォー、ジャパニーズ・グループ、ワン、ツー、スリー、フォー、フ ァイブ、シックス、知らない人よ、セパレーツOK? 師匠、英語うまいな、 と言っていたら、しばらくして、ボーイがココア6杯持って来ちゃった。 私、 受けないと、いやなのよ。 気持を切り替えないと、このまま「代書屋」に入 ることに…。

 親は、子供のためには、頭を下げられる。 逆は、いけない。 子がつらい 思いをするのは、悲惨。 左官の長兵衛、歳を取ってからの道楽で、火の車、 家はのべたら喧嘩だ。 暮の二十八日、空っ風の寒い晩。 今、帰った、いね えのかい。 いるよ。 灯りぐらいつけたらどうだ、油を買う銭もねえのか。  博打で、損ばかりしているからだよ。 どこをほっつき歩いていたんだい、家 は大変なんだ。 お久がゆんべからいないんだよ。 お久は、私の子だ、ふし だらじゃないよ。 探しとくれ。

 御免下さい、親方は、いらっしやいますか。 なんだい、番頭さん。 親方、 お久しぶりで、女将さんが今すぐ来て頂きたいといっているんですが。 二三 日、待ってくれないか、家は今、取り込み事で。 それは、娘さんの事じゃな いですか。 お娘子は、うちの店、佐野槌にいる。 お前さん、迎えに行って。  着物がない、お前の着物を貸せ。 私はどうするんだい、風呂敷しかない。 腰 巻はどうした? 昨日、屑屋に売った。 枕屏風で、隠れていろ。

柳家小せんの「金明竹」後半2019/01/03 08:04

 また、人が来た。 「ちょっと、ごめんやす。 旦(那)はん、いてはりま すか。 わて京橋中橋の加賀屋佐吉方から参じました。 先だって仲買の弥市 を以て取次ぎました道具七品、祐(示右)乗宗乗光乗三作の三ところ物、刀身 は備前長船の住則光、横谷宗珉(王民)四分一拵小柄付の脇差、柄前は埋れ木 じゃと言うてでございましたが、ありゃあたがやさん(鉄刀木)で木が違うて 居りますさかい、ちょっとお断り申し上げます。 自在は黄檗山金明竹、ズン ドの花活には遠州宗甫の銘がござります。 利休の茶杓、織部の香合、のんこ の茶碗、古池や蛙飛び込む水の音。 これは風羅坊(芭蕉)正筆の掛物、沢庵 木庵隠元禅師貼り交ぜの小屏風、あの屏風は、私の旦那の檀那寺が兵庫にござ りますが、その兵庫の坊主の好みまする屏風やさかい、兵庫にやって兵庫の坊 主の屏風にいたしまする、こないにお伝え願います。」 面白えなあ、十銭やる から、もう一遍やれ、伯母さん面白いよ、表によくしゃべる乞食が来た。

 あんた、お家はんですか? お湯屋さんは、二丁ばかり先。 今日もよいお 天気で。 うふふふふ、お茶淹れてらっしゃい。 これに叱言言っていて、二、 三、聞き逃したので、もう一度。 もう三遍もやって、顎がガクガク、耳がガ ンガンしてまんのや。 すぐにお茶を淹れますから。 行きます、さいなら。

 旦那が帰り、誰が来た? 何て言った? 初めは分からない、真ん中はモヤ モヤ、お終いはボオーーッと。 お客さん、お前が出たんだろ、どなただ。 あ ちらの方、着物着て、帯締めて。 馬鹿が移ったんじゃないか。

 そう、中橋の加賀屋佐吉さんからとか。 仲買の弥市さんが気が違って、遊 女は別の客に惚れたといい、その遊女をずん胴斬りにして、ノンコのシャア、 沢庵と隠元豆でお茶漬けを食べて、長船に乗って遠州から兵庫に着いた。 屏 風の蔭で、坊さんと寝たみたい。 一つぐらい、確かなことはないのか。 そ うそう、古池に飛び込んだんだそうで。 そりゃあ大変だ、弥市には道具七品 を買うように、手金が打ってあったんだ、買ったかな。 いいえ、買わずに飛 び込みました。