(特別出演)の謎、本能寺の謎2006/12/01 07:57

 中小企業金融公庫を勤め上げて後、70歳とかで書き始めて、ベストセラーに なった加藤廣さんの『信長の棺』と『秀吉の枷』、興味はあったが読んでみる ところまでは行かなかった。 11月5日にテレビ朝日が放映した『信長の棺』 を見る。 電気紙芝居は手短か、便利だ。

 NHK大河ドラマ『功名が辻』と同じ役者が、別の役で出ているのに違和感 がある。 浅野ゆう子が、寧々(高台院)でなく、信長の側室・お鍋の方、大 河で井伊直政をやっている篠井英介が石田三成をやっている。 浅野ゆう子は エンド・ロールに(特別出演)と出ている。 徳川家康の西郷輝彦も(特別出 演)だ。 昔から映画のタイトルに、(特別出演)や(友情出演)というのが出 る。 (友情出演)は監督や主演の俳優と友達で出てくれたというような感じ がするが、(特別出演)というのは何だろう。 大物俳優が、ちょい役で出てく れた。 ギャラが只か、安い。 会社の系列が違うのだけれど、頼んで出ても らった。 ただのハッタリ。 どちらにしても、あまり見る客には関係のない 話だ。

 で、『信長の棺』だが、太田牛一(松本幸四郎)という『信長公記(しんちょ うこうき)』の筆者を主役にして、その視点から、「本能寺の変」後に信長の遺 骸が発見されなかった謎に迫る。 信長や秀吉が土木工事に、丹波の「山の民」 を使っていたことが一つの鍵になる。 明智光秀に謀反を決意させたのには、 前の関白太政大臣近衛前久との帝の信長討伐の宣を受ける密約があったからで、 それが空手形になった情報を、忍びからつかんだ秀吉と家康は、「本能寺の変」 直後にそれぞれ素早い動きを見せたとする。

狸、猫、猿、鼠に泥棒の落語研究会2006/12/02 07:03

 11月30日は第461回落語研究会。 満員御礼の貼り紙、「落語ブーム」と やらはどうも本当らしい。

「狸の鯉」     古今亭 菊朗

「猫の皿」     三遊亭 好太郎

「猿後家」     立川 志の輔

       仲入

「鈴ヶ森」     柳家 喜多八

「鼠穴」      入船亭 扇遊

 動物名の入った噺がずらっと並んで、ひとりわが道を行く喜多八、「元犬」か 何かやればいいんですが、出ちゃったものはしょうがない。 仲入の志の輔が 風邪引きで、トリの扇遊がぎっくり腰、私だけがマトモ、という。 楽屋でト リと仲入が、満員御礼はおれのせいだと取り合っている。 私は仲入のせいじ ゃないかと思う、と明かす。 あとから出た扇遊、むっとした顔で、ああいう のを高座でまともに言われることはない。 喜多八さんとは、一緒に会などや っているが、虚弱体質とかいいながら、一番元気な人だ、という。

 菊朗は、チンクシャ垂れ目眠むた顔に、ぼさぼさ髪が斜にかかる。 「狸の 鯉」は「狸賽(たぬさい)」の鯉バージョン。 八公が、助けた小狸の化けた鯉 を、兄貴株に男の子が生まれたお祝にする。 ひげが一本でなく、ずいぶん生 えていて、震えている「俎板の鯉」を、半公が料理しようとする。 鯉は、台 所の薪を伝って、屋根に上った、「鯉の薪上り」という落ち。 全体に、いま一 つだった。

好太郎の「猫の皿」2006/12/03 08:24

 三遊亭好太郎は、初めて見た。 出囃子がどこかで聞いたことのある曲、小 遊三や昇太のような洋楽系なのだが……、そうだ「走れコータロー」だ。 す っきりした職人風の真面目顔。 好楽の弟子だそうだ。

 健診を受けた。 内視鏡による大腸検査とかけて、祭りの神輿ととく、心は 「チョウナイを練り歩く」。 ポリープが見つかって、良性か悪性かの検査に2 週間、結果を聞きに行くと、担当の医者が落研出身で「すかしっぺでなくてよ かった」という。 「あーくせい、でなくてよかった」。 ポリープを取って、 念のため1週間入院。 同室の4人に挨拶すると、みんな病名を言う「胃潰瘍 の松本です」「腸捻転の田中です」、それで「大腸ポリープの村上です」とやる と「高橋です、ははははは」という人がいた。 「脱腸」だった。 そんな入 院だから、ずいぶんテレビを見た。 北朝鮮のアナウンサーの真似は、怒った 声で「ダジズデド、バビブベボ、パピプペポ、スミダ」とやればいい。 あち らの言葉で、サンドイッチのことは「パンニハムハサムダ」、思わず吹き出す。

 お宝鑑定団に出た話から「猫の皿」に入る。 「はたし」という商売人が出 てくる。 「売り果たす」から来たと言ったが、『広辞苑』には「旗師…投機取 引をする商人。はたあきない。」とある。 で「旗商い・端商い」は「米相場・ 銭相場などで、現物をもたずに思惑で売買してさやをかせぐ業」。 そういえば、「さやとり」をご存知ですか、という電話がかかってくる。 茶店で300両は するという絵高麗(こうらい)の梅鉢が、猫のえさ用に使われているのに、「は たし」が目をつける。 最後に足がしびれた好太郎は、「まくら」の方がよかっ た。

志の輔「猿後家」2006/12/04 07:08

 志の輔は出てくるといつも「○○でお忙しい中を、よくお出で下さいました」 と、言う。 今回は「造反議員が復党してお忙しい中」。 桂南光を教祖に宗教 団体のようなものをつくった。 志の輔は東京支部長。 入会金はなし。 人 間は何事も自分の意志でなく、宇宙の意志で動かされていると考えるのが教義 だという。 モノは考えようで、一万円落としても落胆せず、五万円落とした と考えて、あとの四万円をどう使おうか、考える。 年増の芸者が出てきて言 った、「二十歳が三人いると思えばいいでしょ」。 古いカメラは、懐かしいカ メラ。 よれよれのコートは、哀愁の漂うコート。 かみさんが太っていくの も、「何でお前、八ヶ月になるまで黙っているのよ」。 「AさんよりBさんが きれい」と言っちゃあいけない、「Aさんにも増してBさんがきれい」といえば、 Aさんも生き残る。 企画は「臨機応変」でなくてはいけない、「行き当たりバ ッタリ」はダメ。 こういうふうに、いろいろ言い方があるから、落語が生ま れる。

 「猿後家」は、大店の呉服屋の後家さんが、非の打ち所がないやり手なのだ が、一つだけ顔が少し強めに猿に似ている。 店の者、出入りの者も大変、「○ ○をなさる」とか「えてして」とか言えない。 三日前にも、出入りの植木屋 が泉水の脇に何を植えればいいか訊かれて、「さるすべりがいいでしょう」とや って、「恩知らず」とキセルで額を割られた。 そのおかみさんを錦絵にそっく りだとか、小野小町とか持ち上げて、鰻やお小遣いを得ようとする連中の虚々 実々の戦いがはじまる。 志の輔、満員御礼はおれのせいといわせようと、風 邪引きを感じさせない「熱」演だった。

喜多八の「鈴ヶ森」2006/12/05 08:03

 喜多八の「鈴ヶ森」は、親分が間抜けな泥棒を仕込むために、寂しい鈴ヶ森 へ連れて行って、追い剥ぎのやり方を教える噺。 喜多八のとぼけた所、ちょ っと恐い顔が、噺に合って、とてもよかった。

 (お)むすびを持っていく。 「しゅうと」にやるため。 「しゅうと」は、 泥棒の符牒で「犬」のことだそうだ。 知らなかった。 これも知らなかった 間抜けがなぜか訊くと、親分は「うるせえからだ」という。

 「おい旅人、ここをどこか知って通ったのか、知らずに通ったのか」で始ま り「身ぐるみ脱いで置いていけ」に至る長い脅し文句を、間抜けが憶えられな いやりとりが、とても面白いのだが、ここでは略す。

 藪に隠れて通行人を待つ、「ケツをまくってしゃがめ」といわれた間抜けが 「あ゛―あ」と声を上げる。 竹の子が尻の穴にささって抜けなくなった。 「手 ぇ貸して!」「ポン」「ケツの穴見てください」「薬ありませんか」「あるか」「せ めてつばでも塗って!」あたりが、私の好みだ。

 カモかと思った通行人が、相撲取りくずれか何かのものすごい奴で、「首っ玉 引っこ抜くぞ」といわれた間抜けが「身ぐるみ脱ぐから、勘弁してください」