権太楼「大工調べ」の金勘定2007/05/02 07:03

 ハカマを穿いて出てきたトリの権太楼、宵越しの銭は持たないという江戸っ 子と、噺家は違う、という。 噺家は、金、持っています。 地下室に隠して あります。 ふつうの噺家は、地下室は持っていない、地下道で寝ている人は いるけれど。 権太楼は、オヤジが大工で(雪隠大工と謙遜)、仕事は出来るが 口は巧くない、その分、おふくろが、畳屋、経師屋、仕事師に目配りしていた という話から、「大工調べ」に入った。

 親孝行で腕はいいが少し足りない与太郎という大工が、家賃を一両二分と八 百溜めた、そのかたに、大家の源六に道具箱を持っていかれた。 棟梁の政五 郎が、手持ちの一両二分を届けさせて、ゴタゴタになる例の噺だ。 一両は四 分に換算される。 その一両二分を、権太楼は「ガク六枚」とも言った。 聞 いたことのない言い方だ。 帰宅して辞書を調べて、ようやくわかった。 「ガ ク」は額、額銀の略。 天保一分銀の俗称で、形が額面に似ているところから、 そう呼んだという。 だが「ガク六枚」を使う意味があるかどうか、疑問だ。

 政五郎が大家の所に頼みに行って、喧嘩になる。 源六が大家になったイキ サツをまくしたてて、毒づく。 それを与太郎にも言わせるお笑いで終わるの が普通なのだが、トリだから「大工調べ」という題の所以、政五郎がおおそれ ながらと奉行所に訴え出る裁判までやった。 奉行は一旦、与太郎を敗訴にし て、残金の八百を納めさせた後、大家の源六に質屋の株は持っているんだろう な、と尋ねる。 株なしに道具箱を質に取った科料に、大工の手間十五匁の二 十日分、三百匁を源六から与太郎に払わせる判決となる。 この銀十五匁は一 分にあたるから、三百匁は二十分、つまり五両になる。 奉行が政五郎に「ちと、儲かったな」といい、(「細工は流々仕上げを御覧じろ」をもじって)「大工は棟梁(とうりゅう)、仕上げを五両じろ」の落ちになる。