奇抜な戦略と、かわいい女2011/08/13 05:48

『青銭大名』で一番面白いのは、五郎左、のちの意足坊尊明、そしてその師 の意外坊が、つぎつぎと奇抜な戦略を繰り出すところだ。 いまちょうど「那 古野討ち」、駿河の大族今川氏の縁続き、那古野の今川(竹王丸)左馬助氏豊の城 を乗っ取ったところである。 織田一族にとって那古野の今川は、喉に刺さっ た棘であった。 信秀は、蹴鞠や連歌を通じて、今川氏豊に近づき、兄とも慕 われるほどの信頼を得て、那古野城内に自分が滞在する仮屋を建てることまで 認めさせた上で、夜討ちをかけた。 それに加え『青銭大名』の面白さの何パ ーセントかは、女にまつわる話になる。

 五郎左が、天女と思って、天上の快楽をともにした美女蓬子(よもぎこ)は、 実は牛を呑む術をも使う幻術師で、当初は守護代家に雇われ、意外坊の命を狙 っている。 もう一度、幻術にかかった五郎左は、意外坊に救われ、僧形の意 足坊尊明にされた。 水争いを治めに行き、ひとり囲まれて弓矢に狙われ、絶 対絶命となった意足坊、今度は鬼を見せ、天魔を見せた蓬子に救われる。 意 足坊を兵法者としても、法師としても頼りないと、押しかけの大黒、つまり嫁 となって、支えることになる。 この蓬子を描いた村上豊さんの絵が、すこぶ るかわいい。 見たい人は、6月14日、18日、21日などの朝日新聞夕刊を参 照のこと。