桃月庵白酒の「お化け長屋」2011/08/31 05:34

 お客さま、師匠、同業の方のおかげで、今日がある。 と言うと、嘘くさい けれど。 楽屋では芸談はしない、酒と女の話。 飲み屋で、思いっきりやる。  キャリアに合わせて、身の回りの物も、上げなきゃあならないなどと教わる。  例えば、着る物、前座、二ッ目と、一ケタ、二ケタ違う、今日のは五百万円く らい、浅草のお店のおじさんがそう言ってた。 住まう所も、変えなければと、 引っ越しをする。 噺家というと、名前を知らないから、まるで信用がない。  師匠は誰? 雲助です。 神楽坂、いい場所というのでマンションがいっぱい 建っているけれど、橋を渡ってもエルセール神楽坂(?)。 江戸川橋より神楽 坂を使う(ボクは江戸川橋が大好き、と気を使う)。 外国人ばかりで、日本人 は俺一人だけというのは、恐い。 誰も住んでいないというのも、恐い。 八 割くらい埋まっているのが、ちょうどよい。

 長屋に一軒空家がある。 住んでいる連中は、空けておいて物置に使いたい ので、借り手が来ると、家主は遠方で、一番奥の「古狸」の杢兵衛さんが差配 だと、そこに回す。 「初めまして古狸様」と来た男に、杢兵衛は、敷金はい い、家賃は払いたいと思ったらでいい、と。 タダ、何か訳が? それなりの、 と座敷に上げ、三年前、二十七、八の後家さんが住んでいた。 器量良しで、 浮いた噂のない人だったが、花嵐時分のある晩、泥棒が入り、物を盗って出よ うとして、後家さんの寝姿が目に入り、ムラムラと来た。 いきなり胸のあた りに手を入れて、騒がれ、髪の毛をつかんで引き寄せ、呑んでいた刃物で一刺 し。 翌朝、駆けつけると、あたりは一面血の海だった。 その後、誰が越し て来ても、三日で越して行く。 三日、四日は何もないが、夜中に遠寺の鐘が ボーンと鳴ると、仏壇の鉦がひとりでに鳴り、障子に長い髪の毛の当たる音が サラサラ、障子は音もなくスーッと開く。 隠しておいた濡れ雑巾で顔をなで ると、ガマ口と下駄を置いて、逃げて行った。 これで一杯やろう。

 マッピラ、ゴメンネー、家主が遠くだ、どこなんだ、早く教えろ。 中(吉原) の女が、年が明けるんで、仮住まいするんだ。 タダだと? 出んだろ、幽霊 が。 死神とか、何とか言うんだろ。 訳はいいよ。 「お願いしますから、 訳だけ聞いて下さい」 本当は話したくないって、どっちなんだ、声を出せ、 売れねえぞ、噺家じゃない? 二十七、八って、どっちなんだ。 「そこはウ ヤムヤ、じゃ二十七」 花嵐時分って、何月何日だ。 いきなりオッパイって、 俺とやり方が違うな。 それは、お前がやったろ、その場にいなければわから ないことばかりだ。 何だ、泣いてんのか。 あたり一面血の海、興奮して鼻 鳴らすな、その声は森進一か、どっか具合悪いのか、お前。 三日で越して行 くのに、三日、四日は何もないとは、どういうことだ。 「遠寺の鐘がボーン、 障子に髪の毛がサラサラ、障子がひとりでにスーッと開く、ケタケタケタと笑 います。怖くないんですか」 掃除して、待ってろ。

 「しようがないから、杢兵衛さんと二人で家賃払おう。 何か、置いていか なかったか。 さっきのガマ口と下駄、黙って、持って行っちゃった」

小人閑居日記 2011年8月 INDEX2011/08/31 06:20

5148 3日スイスで感謝のコンサート―大震災の外国支援に<小人閑居日記 2011. 8. 1.>

5149 和解と平和の場、コー<小人閑居日記 2011. 8. 2.>

5150 読みたくなるような本の紹介<小人閑居日記 2011. 8. 3.>

5151 『清冽』と『子規の宇宙』<小人閑居日記 2011. 8.4.>

5152 コマーシャルの「気になる」女優<小人閑居日記 2011. 8.5.>

5153 「法然上人絵伝」のデジタル化<小人閑居日記 2011. 8.6.>

5154 念仏を唱えていれば極楽へ行ける<小人閑居日記 2011. 8.7.>

5155 法然の教えは勢力を広げ、大弾圧を受ける<小人閑居日記 2011. 8. 8.>

5156 最近、読んだものから三つ<小人閑居日記 2011. 8. 9.>

5157 「浄土教の先駆者」空也メモ<小人閑居日記 2011. 8. 10.>

5158 信長の父、織田弾正忠信秀の物語<小人閑居日記 2011. 8. 11.>

5159 商都津島と勝幡(しょばた)城<小人閑居日記 2011. 8. 12.>

5160 奇抜な戦略と、かわいい女<小人閑居日記 2011. 8. 13.>

5161 光秀の子孫、「本能寺の変」の真相を捜査<小人閑居日記 2011. 8. 14.>

5162 奇跡の遺作『大鹿村騒動記』<小人閑居日記 2011. 8. 15.>

5163 「テレビよ さらば」という週刊誌広告<小人閑居日記 2011. 8. 16.>

5164 『釣りバカ日誌19』大分県の佐伯へ<小人閑居日記 2011. 8. 17.>

5165 河野裕子さんと永田和宏さん<小人閑居日記 2011. 8. 18.>

5166 西岡秀雄先生、「ありがとうございました」<小人閑居日記 2011. 8. 19.>

5167 「鎌倉仏教の繁栄、もう一つの秘密」<小人閑居日記 2011. 8. 20.>

5168 村上由希子さん記念の奨学金制度<小人閑居日記 2011. 8. 21.>

5169 葦原雅亮、晩年の福沢の思い出を残す<小人閑居日記 2011. 8. 22.>

5170 福沢諭吉の、墓についての考え<小人閑居日記 2011. 8. 23.>

5171 錦夫人は、福沢に申訳ないと<小人閑居日記 2011. 8. 24.>

短信 5172 『ヒトラーの防具』<等々力短信 第1025号 2011. 7.25.>

5173 帚木蓬生さんという人<小人閑居日記 2011. 8. 25.>

5174 アートコレクション展「文化勲章受章作家の競演」<小人閑居日記 2011. 8. 26.>

5175 朝から花形歌舞伎、勘三郎の息子達<小人閑居日記 2011. 8. 27.>

5176 柳家喬之進の「仏馬」<小人閑居日記 2011. 8. 28.>

5177 三遊亭遊馬の「佐野山」<小人閑居日記 2011. 8. 29.>

5178 喜多八の「死神」<小人閑居日記 2011. 8. 30.>

5179 桃月庵白酒の「お化け長屋」<小人閑居日記 2011. 8. 31.>