正楽の紙切りと、文菊「甲府い」の前半2012/10/05 01:02

 間に、林家正楽の紙切りがある。 客の注文を受ける。 「イグアナ」と聞 こえた人、正楽が確かめると「菊の花でーす」。 変な客がいたと言う、「とり あえずビール」の注文。 なぜ身体を動かしながら切るか、身体を動かさない と「暗くなる」から、とやってみせる、照明も落として。 「優勝力士」、「幽 霊」、「小言念仏」。 「幽霊」は地面を切って、宙に浮かせ、「小言念仏」は横 に赤ん坊を這わせた。

 楽屋からも拍手が聞こえ、いよいよトリ、お目当て新真打・古今亭文菊の登 場となった。 例によって扇子を突き出した、気取った出だ。 客席も独特の 雰囲気だが、楽屋も小三治会長始めお揃いで、緊張感が漂っている。 ようや っと、ここで一人っきりになれた、と。

 「ひもじさと寒さと恋をくらぶれば、恥ずかしながら、ひもじさが先」。 金 公、よさねえか、ひっぱたくな。 豆腐屋の店先で、卯の花に手を出して、金 公にぼかぼかにされた旅の人、訳を聞けば、腹がへって一文なし、国は甲州、 甲府、昨日浅草の観音様をお参りし、仲見世でどーーんとぶつかられたら、財 布がなかった。 頭突きってんだ。 手を上げてくれ、すまなかったな、金公、 人はいいが、手が早い。 宗旨を聞けば法華という、うちも法華だ。 飯食い な、ばあさん、おかずは生揚げでもなんでもいい。 オハチにお目にかかりま す。 手盛りでやってくれ、といわれて、炊いたばかりを二升、空にした。

 聞けば、なんとかなるまで国に帰らないと、身延山に三年の願掛けをして出 て来た。 あてはない、葭町の口入屋へ行くつもりだったという。 ウチで働 いてみないか、売り子がいないんだ。 善吉の善さん、この家の売り声「とー ふぃー、胡麻入り、がんもどき」で歩くようになる。 愛嬌者で、洗濯の水を 汲んだり、子供が泣くと懐の一文菓子を出したりして、たちまちかみさん連中 の評判を得る。 (いい人ね、と襟を合わせる仕草、前にも書いたが、女が得 意らしい。) 大嫌いと言って、言い過ぎよ、と言われるお咲さんなどは、夜も 眠れないという。 夢の中に出てきて、豆腐を食べさせようとする、私は夫の ある身……。 かみさん連中が味噌漉しを持って並んで、「行列のできるトーフ 屋さん」。 災難なのは亭主たちで、三度三度豆腐は勘弁してもらいてえ、湯に はいったら、フーーッと浮かんだ、と。