苅部直東大法学部教授の講演の前に2015/01/15 06:29

第180回福澤先生誕生記念会、記念講演は東京大学法学部教授の苅部直(か るべ・ただし)さんだった。 前の席にいた福澤諭吉協会会員で、このブログ を読んでくれている黒田康敬さんが、振り向いて「馬場さんの天敵ですね」と 言う。 脱線するが、その話から始めたい。 2011年5月21日、福澤諭吉協 会総会の記念講演で、苅部直さんの「福澤諭吉における「公徳」―『文明論之 概略』ななめよみ」を聴いた。 私は5月25日のこの日記に「苅部直東大教 授の講演」と題して、こう書いた。 「苅部さんの講演、レジメも、参考文献 からのコピーもきちんとしたものを頂いて聴いているのに、難解で、まったく 歯がたたなかった。 実をいうと、頭が痛くなった。 くやしいから、講演の 筋道の題目だけ挙げておく。」「東大、恐るべし。 八代目桂文楽が落語研究会 の「大仏餅」で、台詞に詰まって言った「勉強し直して参ります」を、つぶや きながら、交詢社を後にした。」

すると、驚くべきことに、6月15日に苅部直さんご自身から、コメントを頂 いた。 「苅部直です。5月25日の記事、拝見しました。どうも難解ですみま せん! 寺崎先生、松沢先生、井田先生、小室先生など福澤研究の大家の前で お話しするということで緊張し、情報過多の講演になってしまったと反省して います。『福澤諭吉年鑑』に載せるときは、もっと柔らかくしますので、ごらん いただけると幸いです。」

 私は驚いて、こう返していた。 「ワ゛――ッ!! 苅部直先生、直々のコ メント、ありがとうございます。 かなり老耄が進んでおりますので、理解でき なかったのかもしれません。 福沢流に「山出の下女をして障子越に聞かしむ るように」、「猿に見せる積りで書け」というように、お願いできれば、と存じ ます。」

 福澤先生誕生記念会の記念講演は、「「福澤語」入門――「公徳」と「怨望」」 だった。 苅部直さんは、不幸なことに自分は慶應の出身ではないが、こうし た華やかな催しで話させてもらうのは光栄だと始めた。 慶應で日本政治思想 史の非常勤講師を務めているので、先ほどの清家塾長の「半学半教」の話に納 得がいく。 学校からの書類に苅部君と書いてある。 その精神は理解できる が、人情はついていかない。 学生の答案に、教師の名を書く欄があって、「苅 部君」と書いてあるのがあった。 講評に「むかつく」と書いたが、先ほどの 塾長のお話を聞いて、「私もマダマダだ」と思った。 学生を教えていて、同時 に学生に教えられているという、福沢先生の精神に思いをいたさなければなら ない。 だが、人間の習慣は抜きがたい。 今日の話は「福沢先生」でさせて いただくが、時に「福沢」と言ってしまうかもしれない。