志ん橋の「居酒屋」2015/01/27 06:36

 お寒い中をよくお運びで、と志ん橋は始めた。 酒ぐらい、強い・弱い、飲 める・飲めないの、差の違うものはない。 やってるかい。 行きたいねえ。  辛口を飲ませる店がある、安いし。 そういう酒飲みの目は、活き活きしてい る。 甘党はボンヤリ。 どうする。 寒いから行こうか、おしるこ。 小豆 のいいの使っているんだ。 酒飲みの得なところ。 口論になって、殴る、傷 つける。 裁判で検事は、酔って正常な判断ができなかったとして、刑を軽く する。 甘党は、ない。 牡丹餅とあんみつを食って、正常な判断ができなか った、とは言えない。

 最近はご婦人も、酒を嗜むようになった。 若い娘も、結構飲みたがる。 カ ップルで、女の方が強かったりする。 同じ量を飲んでいるのに、シャンとし ている。 外では、ブレーキが利いているのだろう。 男は逆、酔ってふらふ ら歩いているのは男だ。 いい女がいると、寄って行ったりする、お婆さんだ と、避ける。 家が近づくと醒めて来る、布団の中で釣銭を数えたりする。 

 昔の居酒屋。 醤油樽が椅子代り、婦人なし、色気抜き、小僧さんが一人い る。 こういう店が、酒飲みには落ち着けた。 あのーー、お酒でございます が、何にしましょうか。 清んだお酒と、濁ったお酒がございます、お客様ど ちらになさいます。 形(なり)を見たな、清んだ酒をもらおう。 上、一升!  一合でいい。 手前どもの景気づけでございます。 お待ちどう様です。 お 酌してくれるか。 混み合っておりますから、手酌で願います。 ものには愛 嬌というものがある、客は誰もいねえじゃないか。 どうぞ。 消防がホース 持ってるようだ、片手で持てないのか?  すごい手だね、そっくり親指か、 蟹だったら高いぞ。 ケツを持ち上げろ、お前のケツじゃない、徳利だ。

 初めて入ったから、飲んで見てやる。 (ツルツル頭をペタペタ叩き)すご い酒、飲ませるな、お前んとこは…。 酸っぱ口は初めてだ、どこからの酒だ。  野田の方から。 醤油じゃあないんだろうね、キッコーマンじゃないだろう。  清酒「兜正宗」。 頭に来そうだな、梅干かなんか食っているような心持だ。

 そこへ来ておくれよ、お前を相手に飲むから。 これで、馴れってものは恐 ろしいもんで、だんだん飲めるようになった。 お前、いくつ? 十四です。  いいね、いい年頃だね、女、知ってんのか? 何ですか。 ジョロウ買ったこ とあんの? 買ったことありますよ、へい、ウチに植木がありますから、水を やる。 ご苦労さん、大事にしろよ。 変な面してんじゃないよ。

 景気づけに、歌、歌え。 歌ってくれたら、帰りに釣銭をやろう。 ♪キミ ガーヨーワー。 気を付けして、飲まなきゃあなんなくなる、悪酔いしそうだ、 今日は。 お肴、何にします? 味噌、塩でも、五合ぐらいいっちゃう。 お 肴、いらないですか。 ため息、つくなよ。 「君が代」歌ってくれたから、 頼もう。 小壁の所に書いあるもんなら、何でもあります。 「くちうえ」食 ったことがない。 あれ「こうじょう」です。 「口上」一人前もらおうか。  書いてあるもんなら、何でもあるって、言ったじゃないか。 「とせうけ」っ てのは何だ? どぜう汁です。 ニゴリが取ってあります、ニゴリを打つと、 読み方が変るんです、四十八文字みな変る。 みんな変るのか、「い」にニゴリ を打つと、どうなる? ため息をつくな、じゃあ「ろ」は? 「ま」は? 「な」 は? 打てないのばかり、言わないで下さい。 「ばな」の頭に、汗かいてい るじゃないか。 「はな」です。 脇にニゴリが打ってある。 ホクロです。  お前「びたい」に「がお」だな。

 つまめるものが、棚に並んでます。 真っ赤になって、ぶら下がっているの は何だ。 タコです。 生きてんのか、死んじゃったのか。 生きていません。  いつ死んだ、惜しいことをしたね、手紙の一本もくれりゃあ、お通夜に行った のに。 茹でると、赤くなるんです、海老も、蟹も、みんな。 お稲荷さんの 鳥居も茹でたのか、どうやって茹でたんだろう。

 口開けて、ぶら下がっているのは、何だ? 鮟鱇、鍋が美味しいです。 奥 で口開けて、ねじり鉢巻きでソロバンを片手にしているのは? ウチの番頭さ んで。 番頭、一人前もらおうか、番頭鍋一人前でもいい。 ウチの番頭さん、 一人前はありません、半人前なんです。