俳句「昭和は遠く」 ― 2016/01/01 07:38
明けましておめでとうございます。 平成28年の元旦だ。 吉例となった 俳誌『夏潮』一月号の親潮賞応募作を、初笑いのタネにご覧に入れることにす る。 年賀状に書いたが、今年の誕生日で75歳、後期高齢者となる。 文字 通り、昭和は遠くなりにけり、戦後70年、幼少年時代の記憶である。
「昭和は遠く」 馬場紘二
靴磨き少年黒き洟拭ふ
戦闘帽傷痍軍人日向ぼこ
外套に学帽で入る古本屋
MPの交通整理銀座春
カランコロン下駄で登校入学児
日劇や春の踊りの絵看板
春風に足袋数多干し柳橋
緑蔭や賭け詰将棋覗いてる
片かげりカストリ雑誌並べ売る
秋天にアドバルーンや数寄屋橋
ひよいひよいと渡る貯木や秋の水
掘割の船にも秋刀魚焼く暮し
紙芝居囲む子供らちゃんちゃんこ
駄菓子屋は二階の窓に蒲団干し
ロウセキで道路に雪の富士を描く
弟をおぶひ焚火に姉は手を
息白き羅宇屋の蒸気また白し
縁の下に押し込んであり炭俵
冬空へお化け煙突煙二本
どの家も畳を上げて煤払
駒松改メ金原亭馬久の「厄払い」 ― 2016/01/02 07:44
12月25日のクリスマスは、2015年も落語研究会だった。 第570回を数 え、演目と演者は次の通り。
「厄払い」 駒松改メ 金原亭 馬久
「ふぐ鍋」 柳家 小せん
「御慶」 桃月庵 白酒
仲入
「彌次郎」 入船亭 扇遊
「羽団扇」 柳家 小満ん
11月、二ツ目に昇進して、金原亭駒松改メ馬久(ばきゅう)になったという。 二年間、落語研究会の前座(めくり)を勤めたので、そのお祝いの高座。 こ の会の前座は気の重い仕事だった。 楽屋が(収録もあって)ピリッとしてい る、客席もピリッとしている。 袖で、前座(開口一番)の兄(あに)さんた ちが、無惨に散って行くのを見ていた。 前座はロビーで十分だと、入って来 ないお客さんがいる。 (大きな声で)ロビーのお客さん! 馬久です!
落語には、愚かしい人物が登場する、与太郎。 さっき、お袋が来てこぼし ていったぞ。 ウチでもそう、歯が悪いんだ。 泣いてったよ。 色男にはな りたくないもんだ、年増女を泣かした。 馬鹿野郎、商売をさせる、元手いら ずの「厄払い」だ、豆と御足がもらえる。 いくら? 1銭から2銭、炒った 豆ももらえる。 豆はまとめて売る所がある。 豆腐屋か? 炒った豆だぞ。 焼き豆腐、炒り豆腐になる。 豆菓子屋にまとめて売る。
口上を教えるから、憶えろ。 「ああら、めでたいなめでたいな、今晩今宵 のご祝儀に、目出度きことにて払おうなら、まず一夜明ければ元朝の、門に松 竹しめ飾り、床にだいだい鏡餅、蓬莱山に舞い遊ぶ、鶴は千年、亀は万年、東 方朔は八千歳、浦島太郎は三千年、三浦の大介百六ツ、この三長年が集まりて、 酒盛りいたす折からに、悪魔外道がとんで出て、さまたげなさんとするところ を、この厄払いがかいつかみ、西の海へと思えども、蓬莱山のことなれば、須 弥山のほうへサラーリ、サラーリ」。 そんなに長いのは憶えられない。 今日 憶えろ。 今日はダメ、来年の今日までに憶えてくる。 猫と遊ぶな。 婆さ ん、物差し。 猫のヒゲ、抜くんじゃない、鼠を捕らなくなる。 しかたがな いな、紙に書いてやる。 仮名なら読める。 いっぱい、書いちゃったな。 よ く稽古して、暗くなったら出かけて、やって来い。
稽古もせず、ごろっと寝ちゃったら、あたりが暗くなった。 おもては寒い や。 こんちは、ごめん下さい、厄払いです。 ウチは、もう払っちゃったよ。 売り声がいるな、「厄払いですよ」、「厄払いだよ」、「厄払います」。 「お年越 しのご祝儀に、おん厄払いましょう、厄払い!」。 うまいな、付いて行こう。 「まなか」か? 一緒に行く、ピンでいいもの貰う。 駄目だ。 逃げられた。
「おめでたい、でこでこに、おーーめでたい、厄払い!」。 面白い、番頭さ ん、呼んで来てくれ。 暖簾のかかった家だ。 払います、払いますけど、先 に豆と御足下さい。 確かめてんの。 一銭五厘だよ。 炒った豆だ、ちょっ とだけ。 食べちゃつてるよ。 大丈夫、おいしい、固い。 ホウロクでよく 炒ったほうがいい、ごちそうさま、さようなら。 厄払いをやれ。 明るい所 はどこ、障子閉めてピタッと。 「あらめ、でたいな、あらめ、うでたいな… …、いちやあ、ければ、がんちようの……」「つるはじゅうねん」。 待ちな、 鶴は千年だろ。 赤ちゃんです。 「かーめは…」あれ本字だ、すみません、 前の店の暖簾の字、なんて読むんですか。 前の店、万(よろず)屋だ。 「か ーめは、よろずねん」。 「とうぼう……」で詰まって、逃げちゃおう。 あっ、 いませんよ、旦那、厄払いが逃げて行きます。 逃げて行く、道理で今、逃亡 と言っていた。
小せんの「ふぐ鍋」 ― 2016/01/03 07:33
今年もあとわずかだが、実感がわかない、暖ったかい日が多い師走だ。 坊 主頭で、細身、長身、寒いのが苦手、骨の芯まで冷える。 炬燵、コート…、 布団から出られなくなったら、冬だという。 自分、個人としては、白菜が安 くて、美味しくなったら、冬。 これ板橋でやったら賛同が多かったが、国立 では駄目。 鍋をドーーンとやって、残りを夜食で食べ、翌朝食べ、カレーに したりして、また食べる。 カブおろした氷瀑鍋(?)がいい。
ふぐのことを「てっぽう」、刺身を「てっさ」という。 弾に当ると、死んで しまう。 たまーに、中る。 提供している側が「てっぽう」といっていると、 間違いがあるのかしら、と思うけれど、昔はあった。
大橋さん、来てくれましたか。 旦那、橋本の旦那のお供で温泉巡りをして まして。 どちらへ。 北海道の登別から、南紀の白浜、草津、道後、熱海を 廻って、指宿へ。 ずいぶん、行ったり来たりだね。 旦那に召しあがってい ただきたくて、お土産を、登別で銘菓・東京ばなな。 何で? 東京物産展と いうのをやってましてね、見知った人に出会った感動があった。 (一杯やる 形で)こんなことをしていたんだが、用事あるのか。 いいえ、旦那の貸し切 りです、昼間っから飲みたいなって、思ってた。 アーーッ、おなかに届いた 幸せ。 何という酒で? 銘酒、犬の盛り。 珍しい。 イカの塩辛はどうだ。 大好物だけれど、駄目なのは駄目。 旨い! つかり具合がいい、どこの塩辛 で? 瓶にあるだろう。 栃木県宇都宮、海がなくてもいいんで?
鍋は食べるかい? 大の好物でございまして、何鍋で? 鍋だよ。 白菜、 ネギ、白滝、豆腐…、それに白い物が入っている。 気にするほどの物ではな い。 何です? これはまあ「ふ」だ。 「ふ」? ふぐだよ。 やっぱり…、 わたし、用事を思い出しましたんで、また。 ふぐを食べるには、まだ時期が 悪い。 倅が、旦那のお世話で、就職したばかりで…、いずれ嫁をもらって、 孫が生まれて、一人前になってから、ふぐは頂きたい。 おべんちゃらも、口 だけなんだな、もういい、二度と家に来るんじゃない。 旦那が、先に召し上 がって下さい。 気味が悪い、この年になってやったことがない。 誰か見え たら、食べてもらって、それから食べたいと思ってね。
いつもの御薦(おこも)さんが来て、お余りをって、言っていますが。 ち ょっと待ってもらいな。 御薦さんに食べてもらって…。 さすが旦那、腹黒 い。
見届けました、大丈夫です、神社の石段で食べようとするところ、あとで気 持良さそうに居眠りをして、寝言をムニャムニャ言っていた。 よしよし、食 べられるんだな。 間違いない。 一、二、三(ひの、ふの、み)で、一緒に 食べよう。 身の厚い所、一、二、三で。 口開けて、呑まない。 一、二、 三! これは、美味しいな。 旦那、美味しゅうございます。 どんどん遠慮 せずに、こうなったら、ハフハフハフ。 鍋の後は、雑炊にして…。 美味し い、美味しい。
御薦さんがまた来て、お余り、もうありませんかって、言ってますが…。 二 人できれいに平らげた。 では、私も安心して、これからゆっくり、頂戴を致 します。
桃月庵白酒の「御慶」前半 ― 2016/01/04 07:23
今日はクリスマス、以前は寄席に来るなんぞ「負け組」の感じがした。 徹 底しなくてもいいと思う、呉服屋の親父が「メリークリスマス」って言ったり、 宅急便のお兄さんがサンタの帽子をかぶって「メリークリスマス」って届けて きたりする。 ハロウィン、NHKまで中継しなくてもいい、トップの方が、 さる筋から言われたんでしょう、ガッテンてわけで…。 ディズニーランドで お酉様やったらどうでしょう、50万の熊手買ったら、ミッキーが手を締めたり して。 見世物小屋があって、ミッキーが蛇を食う、鼠が蛇を食う、下剋上。 テレビの歳末番組、さんざん振り返った後で、年忘れ、やってる。 今年だっ たら、年忘れやってもいいのは、旭化成とフォルクスワーゲン。 リセットす る意味では、年忘れやったほうがいい。 宝くじ、ジャンボ、気合が入ってい る。 西銀座チャンスセンターに大変な行列、仕事休んで並んでいるという、 働けよ。 10億円、そんなにいらない。 いいところ、3億円。 みずほ銀行 は、10億ですって、8・8億円位渡しても、わからない。 頭、バカになる。 10億円そっくり宝くじを買って、2、3億円当たったりする。
昔は、大晦日に借金を返してリセットした。 亭主が博打にのめり込むと、 家族はえらい騒ぎ。 どうすんの、28日よ。 半纏、脱げ。 おっ母さんのか たみよ、お金に換えて、富を買うんだろ、もう別れるよ。 買わなきゃ、当た らない。 いいから脱げ。 質屋で一分にして、湯島に飛んで行く。 お好み の番号は? いい夢を見たんだ、梯子のてっぺんに鶴がとまった、鶴の1845 番だ。 夢判断ですか。 くれ、くれ! たった今、売れたばかりで、致し方 ない、おあきらめを。 もう一枚、鶴の1845番つくれないか。 無理です。 駄目なの、アバヨ。 かかあが、さっさと半纏脱げばいいんだ、質屋の番頭も、 二、三発殴るまで一分出さなかった。
易者の先生か。 しゃべらないでいい、だいたいわかった。 少し、しゃべ りなさい。 これこれ、こういう夢を見た。 よした方がいい、買わんほうが よい。 売れちゃったんだ。 それはよかった、ワハハハハハハ。 梯子は、 下から上に昇る。 登ったり、降りたりするものだ。 たとえば、二階にいて、 急な用事ができたら、どうする。 飛び降りる。 下にいた時は、どうする。 考えやがったな。 飛び上がれないだろう、梯子は下から上に昇るものだ、1548 番と買うべきものだ。 見料は? 後で、払う。 鶴の1548番はあるか。 念が届きましたな、あります。 それ、くれ。
鶴の1548番! タッタッターーーッ! 腰が抜けちゃって、立てない。 運 んでってやれ。 千両、くれ、くれ! まず、水を飲んで。 あなたは気丈だ、 来年2月になると丸取りになる。 今すぐ、くれ! 二百両引かれますが、よ ろしゅうございますか。 八百両って、千両より多いか。
桃月庵白酒の「御慶」後半 ― 2016/01/05 06:20
二十五両の切餅、32個、懐に入れる。 オッカア!オッカア!オッカア! ヤ ッコさんだよ。 開けてくれ。 バカ、起こしたのかい。 大変だぞ、千両、 当たったんだ。 まだ出るぞ、ほら、ほら…。 八百両、すごいじゃない。 別 れるか? 一生、添い遂げるよ、楽しく暮らせる。 買いたい物あったら、何 でも言え。 春の着物はどうだ、十二単衣でもいい。 三分玉のかんざし、一 尺玉でもいい。 首がもげちゃうよ、お前さんも欲しい物を。 旦那みたいな、 つっぱらかったやつ。 裃(かみしも)だろ、お前さん、きっと似合うよ。 市 ヶ谷の甘酒屋さんで。 その前に、大家さんのところだ、家賃はいくつ溜まっ てる。 八つ。
大家ーーッ! 大家ーーッ! 大家ーーッ! 何だ、八公か。 家賃を払い に来たのか。 いくつ溜まってんだ? 八つ。 たった。 こっから、取って もらおう。 なんだ、切餅なんか出しやがって。 千両、当たったんだ。 も っと、取んな。 いらねえなら、捨てていい。 婆さん、八公が小遣いくれた よ。
市ヶ谷の甘酒屋で、裃を買い整え、それを着ると、三日の間、寝ないで待つ。 正月が近づいて来る。 おめでとうございます、をやって来よう。 みんなま だ寝てんのか。 大家さん、おめでとうございます。 立派になったな。 弥 蔵を組むんじゃない。 挨拶の言葉も、短っかくて、重々しくて、仕事が出来 そうなのを、教えてやろう。 「御慶」。 長松が親の名で来る御慶かな、とい うな。 上がってけって言われたら、また春永にゆっくりお邪魔しますと、「永 日」と言って、帰って来ればいい。
「御慶!」「御慶!」。 「永日!」と来やがった。 辰っちゃん、いるかい。 辰は、朝早くに出かけてるよ。 八っつあんかい、立派になっちゃって、明け ましておめでとう。 おばさんでかまわねえ、「御慶!」。 こっちへお上がん なさい、と言ってくれ、頼むよ。 「永日!」ってんだ、こんちくしょう。
半公だ。 富、当たったんだってな、よかったじゃないか。 「御慶!」。 お 上がんなさい、と言ってくれよ。 ここ往来だぞ。 「永日!」ってんだ、ち きしょう、べらぼうめ。
辰吉、戻って来たか。 何だ、福助人形みたいな恰好して。 「御慶!」「御 慶!」「御慶!」。 何を言ったんだ? 「御慶!」(どこへ)って、言ったんだ。 恵方参りの帰りだ。
桃月庵白酒の「御慶」、にぎやかで元気がよく、最高の出来だった。 拍手、 拍手。
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