俳句「貧すれど」2017/01/01 07:04

 明けましておめでとうございます。 平成29年の元旦です。 第582回落 語研究会を一日お休み、毎年元日に初笑いのタネにご覧に入れている自作の俳 句、俳誌『夏潮』一月号の親潮賞応募作、題して「貧すれど」です。

うらめしや晴れて嵩増す秋出水

月照るを忘れ東京蹲る

天高く大気乾きて犬笑ふ

好きな子の活躍苦き運動会

単線の電車待ちをる秋日和

秋草やひとり笑ひの地蔵様

秋澄みて味噌屋の香る城下町

有り合ひの箱で届きし柿甘し

飯勝ちの中に松茸紙のごと

誰一人笑はぬ洒落や文化の日

小さい秋見つけに田端文士村

球見えぬ七回の裏秋の暮

大仏はひとり坐すなり秋黴雨

ゴジラ出て鱗繕ふ小春かな

小春日や税務署員の昼休み

干蒲団鰯と並ぶ石畳

朝寒やいつもの犬のすまし顔

貧すれど鈍せぬ意地や一葉忌

からからとこのみふるおとわがほねに

この国の出口見えねど鮟鱇鍋

林家正蔵の「鰍沢」前半2017/01/02 07:40

 昔は一代法華と申しまして、と、いきなり始めた。 芝露月町の貸本屋、大 川屋新助が親父の遺骨を身延山に納めた帰り、吹雪にあって、道に迷った。 も う駄目かと思ったとき、灯が見えて、人家があった。 ごめん下さいまし。 旅 の者で、道に迷いました、この辺りに旅籠はございませんか。 この先はどん づまり、家でよかったら、あばら家だけれど、雪ぐらいしのげます。 こっち にいらっしゃい、囲炉裏に粗朶をくべて、濡れた合羽を乾かしなさい。 燃え て参りました、暖ったかい、命拾いいたしました。 年増だけど、実にいい女 で、色は抜けるように白く、豊かな黒髪を束ねている、藍微塵(みじん)の着 物に、白い伊達〆をキリキリッと締めて、茶弁慶のねんねこ半纏には、ツギが 沢山ある、東海道五十三次。 煙管で煙草を喫う、アゴ下からノドにかけての 疵が物凄い。

 芝露月町の貸本屋の大本、大川屋新助と申します、おかみさん、言葉の端々 から、江戸の方でございませんか、江戸はどちらで。 しばらく浅草の観音様 の裏ッ手に住まってました。 もし間違えたらすみません、熊蔵丸屋の月の兎 (と)花魁じゃございませんか。 わちきは月の兎。 ご無沙汰いたしており ます、私は一回だけ吉原へ参ったことがありまして、二の酉の晩に、ご厄介に なりましたのが花魁で…、夢見によく見ました。 花魁は心中なさったと、世 間で評判ですが、嘘なんですね。 いえ、やったんですよ、その時の疵がこれ で。 相手は薬屋の若旦那で、晒し者にされ、溜に送られて女太夫にされると ころを何とか切り抜け、こうして甲州の山の中で二人で暮らしている。 それ ではご主人は。 心中の片割れですよ。 考えてみると、うらやましい。 ウ チのが本町の薬屋のしくじりで、熊を獲っちゃあ膏薬をつくって、里に卸して います、今日も売りに出ていて。 道理で鉄砲がある、狂言作者なら、乙な二 番目狂言に書くところだ。

 紺縮緬の胴巻から小粒で二十五両入っているのを出して、封を切り、三両ば かり包んで、江戸の手土産代りと差し出す。 そうですか、有難く頂戴します。  ご酒をいかが。 下戸でして。 玉子酒にしましょう、シンが温まりますから。  黄味を二つばかり落して、大きな茶碗で、どうぞ、と。 フッ、フゥー、チュ ルリ、やあ、おいしゅうございます。 腹が温まって参りました、花魁は以前 よりおきれいになりましたね。 いやですよ、周りで月の輪のお熊なんて言わ れてるんですよ。 お猪口二三杯で真っ赤になる、金時の火事見舞いでして、 横になりたいんですが。 奥に布団が敷いてあるから、休んで下さい、それか ら私の客だったことはうちの人に内緒で。 お熊は、酒を買いに、カンジキを 履いて、外へ出る。

林家正蔵の「鰍沢」後半2017/01/03 07:31

 亭主の芳三郎が、入れ替わりに入って来る。 酷い降りになりやがった、お 熊! 今、帰ったぞ。 いねえのか、おーー寒い、何だこりゃあ、玉子酒か、 いい気なもんだなあ、亭主が雪の中を商いに出ているのに、女房は玉子酒か。  何でえ、こりゃあ、ひでえ味がするな、冷えたら飲めるもんじゃないが、まあ いいか、バカに澱(よど)んでんな。 何だ、見かけねえ合羽だな。

 お前さん、開けておくれよ、ヨー、ヨー、ヨー。 ウッ、おっかあ、お熊、 ワーーッ。 どうしたい、お前さん。 腹が痛い、体中しびれてるんだ。 今、 ここにある玉子酒を飲んだら。 お前さん、これ飲んだのかい、迷った旅人が 入って来た、胴巻から金を出したら、二百両はある勘定だ。 二百両あれば、 上方へ逃げて、店だって出せる、玉子酒に痺れ薬を入れたんだ。

 この騒ぎに、隣で聞いていた新助、思い当たったのが、身延で頂いた毒消し の護符だ、雨戸に寄りかかったら倒れて、雪の中に飛び出した、雪を口の中に 入れる。 道中差しと振り分けの荷物を取りに戻った。

 駆けずるように逃げ出す、下弦の月が一面の銀世界を照らしている。 気づ いたお熊が鉄砲を持って、追いかけて来る。 前は崖、釜ヶ淵だ。 お熊が、 引き金に手をかける。 後ろは鉄砲、前は崖だ。 妙法蓮華経、南無妙法蓮華 経、雪なだれとともに、山筏の上に落ちたら、道中差しが鞘ばしり、つないで あった蔓を切った。 筏を結んでいる縄が、ブツ、ブツ、ブツと切れ、筏がバ ラバラになった、材木の一つにしがみつく。 流れの緩やかな所に来た。 上 の方では、お熊が立膝をして鉄砲を構えている。 目と目が合った。 バーー ン! カチッ、弾は後ろの岩角に当った。 有難い、御祖師様のご利益、お材 木(お題目)で助かった。

三遊亭歌武蔵の「だるま」2017/01/04 07:26

 おあと権太楼師匠をお楽しみに…、熱演すべく、ちょうど今、点滴を打って いるところで…。 選挙の標語に「出たい人より出したい人」。 小さい時から やっている、学級委員や生徒会長の選挙。

 やりました! 当確が出ました、圧倒的な大差です。 もう、出たのか。 強 かったですね、相手の山野進一が…。 凸山、やりましたって、言ったな。 選 挙史に残る早い当確です。 先生は、背が低いのに座高が高い。 笑顔が怖く て、飛んでる鳩が落ち、老人は失禁する。 手がいけない、脂性なので握手を すると、有権者の手がベトベトになる。 素手で、ワックス掛けが出来るんだ。  名前はカネミツ・マサハルなのに、みんなには金満政治に見える。 ネガティ ブ・キャンペーンも痛かったです。 マニフェストと公約の違いを聞かれて、 マニフェストは幹部が考えるもの、コウヤクはカンブに貼るもの、と答えたと か言われて…。

 相手が手強かったです、山野はイケメンで、16歳の女の子に援助していると いうので、行き先を調査したら病院で、難病の入院患者を全面的に支援してい ることが分かりました。 電話を盗聴していて、涙が出ました。 私は先生に 一票入れましたが、悪魔に魂を売り渡したような気持になりました。 美談は いいんだ、何かスキャンダルはないのか。 高校生の時のあだ名が「窃盗犯」。  それはいい。 高校三年間、女生徒のハートをつかんで、放さなかった。 最 終手段として、サブミナル効果を使いました、コーラが飲みたくなるというや つです。 テレビは予算の関係で駄目、ポスターを使いました。 先生のポス ターの下に、米粒に般若心経を書く人に、書いてもらった。 そんなことばか りやっていて、駄目な奴だ、お前なんかクビだ。

 事務所で先生のポスターに落書きしてやろう。 駄目だ、先生の顔一面にダ ーツが刺さっている。 酷い顔だな、過去に4人位、人を殺している顔だよ。  あっ、「必勝だるま」だ。 気の毒だよ、俺が目を入れてやろう。 ねぎらい の言葉も書いて、「ごくろうさ」、あれ「ま」の字が書けなくなっちゃった。

 ずっと寝不足だった凸山さん、家に帰って床に入る。 真夜中時分、こんば んは、と誰か来る。 新聞の勧誘か? 新聞の勧誘は、夜中に来ません。 今、 開けてやる。 誰? お前。 わかりませんか、「だるま」です、選挙事務所に いた。

 目を入れて下さったんで、こうやって、人間になることができました。 何 て言って、お礼を言えばいいのか。 本当に「だるま」なんです。 あの事務 所には、あなたと私しかいなかった。 シャツをめくると「ごくろうさ」、「ま」 の字が抜けている、本当だ。 両目が開くと、人間になるのか。 そうです、 総務省の調べでは、「だるま」が人口の1%を超えました。 人間社会に恩返し すべく、大手企業の商品開発部で、だるまストーブを開発しました。 普通の サラリーマンなんですが、おやじ狩りに遭っても、手も足も出ない。 最後に は、血だるまになってしまった。 俺の所にも、恩返しに来たのか、機織り機 はないよ。 目を入れて頂きたい「だるま」がある。 山野進一事務所の「だ るま」が可哀そうで、ダルビッシュって奴です。 私はダルエモン、模型ロボ ット(?)と微妙にかぶる。

 山野進一先生、ご当選おめでとうございます。 手前どもは、外資系大豆販 売会社で、これは当選祝いの手土産です。 これは困る、もっときれいなお金 があるでしょう、裏を通すとか、賢いやり方が…。 アメリカから会長が来て おります、ミスター・ソイ・ビーンズ。 身体だけは、大豆(ダイジ)にして 下さい。 アメリカン・ジョークです。 素晴らしいイベントを考えました、 モンスターに豆をぶつけるデイをこしらえる。 節分だよな。 大豆からは納 豆ができる、テーマパークを造りたい。 名前が、ネバーランド。

 不正なお金の受け渡しの怪文書「だるまはまるだ」が、マスコミにリークさ れた。 多額の国民の金が、大豆会社に流れたことが明らかになった。

 繰り上げ当選は、気持いいな、ワッハッハ。 金満先生、私を秘書に。 何 を言っているんだ凸山、秘書はもう二人、用意してる。 ダルエモン君と、ダ ルビッシュ君だ。 彼らがマスコミに情報を流してくれた。 あっ、そうか、 「だるま」さんが転んだ。

    「だるま」の題で、聴いたことのない噺だと思っていたら、新作だった。 歌 武蔵作なのだろうか。 志の輔の「みどりの窓口」や、喬太郎の「布哇の雪」 に比べると、駄作で、つまらなかった。 歌武蔵、このところ古典でだいぶ腕 を上げていたので、少し残念だった。

柳家権太楼の「睨み返し」前半2017/01/05 06:33

 昔の江戸っ子は、のべたらに「何とかなるよ」と言っていた。 何とかなる のは、付け商売だから。 その代わり、地元の商店街で買う。 ウチのお袋は 料理ができない、近所の小田原屋でうずら豆、でんぶなんかを買ったりしてい た。 年に二度ばかり、許さない。 お盆、<トトは山とカカは言い訳し>と いう山は大山詣り、夏のさ中に借金から逃げていた。 もう一つは、大晦日、 今は紅白を見る時代になった。 最近は誰が誰だかわからない、団体…、昔の 団体はわかった、ダークダックス、こまどり姉妹…、テレビの人に言いたい、 アップにしないで、思わずやなものを見た、消したくなる。

 <大晦日もうこれまでと首くくり> 正月明けて、去年の話されてもわから ねえよ、と言われると、取りはぐれる。

 どこ行っていたんだい、ブラブラして、お前さんがいないから、夜分までに お届けしますって、言っといたけどね。 「できましたら」と、入れろ。 ど うするつもりなんだい。

 こんばんは。 来たよ。 黙ってろ、返事するんじゃない。 薪屋でござん す。 こんばんは。 どうなってんだい、この家は…、こんばんは、薪屋でご ざんす。 開けてやろう。 いるんですか、お忙しいゅうござんす。 忙しい のは、俺んちじゃない、寒いから閉めて入って来い。 何だよ。 お門を通っ たんで。 家は路地の突き当り、掃き溜めの隣だ、どうやってお門を通ったの。  何だよ。 お勘定で。 お勘定くれんの。 取りに来たんです。 ねえよ、ね えから財布を逆さに振っても、何も出ない。 大晦日ですよ。 ないものは出 来ない、ハイ、お帰り。 子供の使いじゃないんだ、言い方があるでしょう、 嘘でもいいから、申し訳がない、春になったらすぐ届けるからとか、そう言っ てもらえれば、帰りやすい。 そんなら、今のでいいんだ。 ずうずうしいん だ、親方、往来で会うと、何でそっぽを向くの。 勘定もらうまで、ここを動 かねえから、いいね。 江戸っ子だね。 俺も、因果と同じ性分だ。 おっか あ、薪ザッポ持って来い、ゴツゴツしたやつ、向う脛かっぱらうぞ。 ウチの 薪だ、動かねえよ。 何とか早くこしらえたいが、ひと月、ふた月、三月はか かるよ、炊き出しなんかできねえ。 いいよ、もう、今日はもらったつもりで、 帰るから。 いやだよ、お前動くな、どうしても帰りたいなら、帰えれるよう にして、帰れ。 もらったか、もらわなかったか、はっきりして。 もらった よ。 何を? 勘定だよ。 いつ? 今。 どこで? この辺で、もらった。  この辺で渡した? 俺、頭悪くなったのかな、あっ、渡したな。 帰んのか、商 人は愛嬌が大事だ、ニッコリ笑って帰れ。 そうだ、まだ受け取りをもらって ない。 金8円25銭。 これぐらいの勘定、すぐに取りに来ておくれよ、俺 も忙しいんだ。 判、押してないよ。 親方、本気かい、馬鹿馬鹿しくって、 話もできない、薪屋なんかやらなきゃあよかった。 「だるま」ってのも、そ うだ、いつ終わるんだか、わかんない。 イライラして…、落ちも大したこと なかった。 お前に渡したの、たしか十円札だ、まだ釣りをもらってない。