オハイオ印ブルーチップ・マッチ箱の詩2017/10/01 07:22

 映画『パターソン』で、パターソン運転手が最初にノートに書きつける詩は、 大好きなオハイオ印ブルーチップのマッチ箱についての詩である。 マッチ箱 に書かれた字が、メガホン形に広がっていくデザインで、その前に好きだった のはダイヤモンド印のマッチだったとも言う。 実はこの詩、ニューヨークの 人気詩人ロン・バジェットが、親友のジム・ジャームッシュ監督に提供したも のだそうだ。 1970年代後半、ニューヨークにやってきたジム・ジャームッシ ュは、コロンビア大学であらゆるタイプの詩を読み、自らも書いて、熱心に詩 を探求した。 ジョン・アッシュベリーやフランク・オハラなどのニューヨー ク派に心酔し、「こういった詩人たちから、物事を真剣に受け止めすぎないこ とを学んだ」のだそうだ。 ロン・バジェットは、ジム・ジャームッシュと同 様にコロンビア大学のケネス・コークに師事した親友で、彼が過去に書いたオ ハイオ・ブルーチップ・マッチの詩など4編の詩を、この映画の劇中でパター ソンの詩として使うことを承諾し、さらに3編の詩を書き加えてくれたという。

 このブログを毎朝読んでくれている人として、時々登場する福澤諭吉協会の 黒田康敬さんが、マッチ関係のお仕事をしていたことを思い出して、メールで ご連絡してみた。 すると即座に、こんな返信があった。   「貴重な情報ありがとうございます。ブルーチップもダイヤモンドも輸入し て売っておりましたが、今は扱っていません。オハイオマッチは30年くらい 前に廃業し、ダイヤモンド社が引き継いでいます。ブルーチップブランドは市 場から消えておりましたが、最近ブルーチップ印の復刻版を同社が発売してい るようです。」

プログラムの、ジム・ジャームッシュ監督インタビューで、監督はオハイオ・ ブルーチップ・マッチについて、「ちなみにあのマッチは、いまはもう存在し ない。だからこの映画のために美術スタッフが復刻版を作ったんだ」と、語っ ていた。

柳家小痴楽の「干物箱」2017/10/02 07:16

 29日は、第591回の落語研究会だった。

「干物箱」      柳家 小痴楽

「鮑熨斗」      鈴々舎 馬るこ

「文違い」      入船亭 扇遊

       仲入

「試し酒」      橘家 文蔵

「五貫裁き」     柳家 三三

 柳家小痴楽、くしゃくしゃ頭が若手らしい。 TBSオチケン、次の馬るこ兄 さんの「鮑熨斗」が読めずに、新作ですかと聞いて、しくじったと。 前に出 してもらった時は(柳亭小痴楽の「磯の鮑」<小人閑居日記 2014.11.1.>)、 雲助師匠の「木乃伊取り」を初めて聴き「キノイトリ」と読んで、前座からや り直せと言われた。 師匠には、紋を付けないようにと言われているので、こ の形で出ている。 落語芸術協会、芸協の所属。 同じ落語家だが、落語協会 とは、一つ違う。 落語協会は、上手い落語家が集まっている。 落語芸術協 会は、落語出来るのかなという人が集まっている。 何、拍手してんの!

 吉原入りびたりの若旦那、お店の金庫から持ち出して使う。 <大声で叱る は真の親子なり><意見聞く倅の胸に女あり><親孝行したくないのに親がい る>。 湯に行って十日帰らない俺が悪かった。 湯冷めする、って言ったら、 親父、怒ったね。 二階に閉じ込められた。 親父は笑わない。 花魁の笑顔、 えくぼがいい、会いたいね。 誰か身代わり、分身が欲しい。 本屋の善さん だ、声色が巧い。 二階で、下の親父の相手をしてもらえばいい。

 善さん、私だ、開けろ。 借金取りか…、何だ若旦那じゃござんせんか。 一 人分しか開かない、おなかを引っ込めて、釘に気を付けて、足元に落とし穴。  要塞だね。

 ここんとこ、親父がうるさくって。 オヤカマシイなんて。 善さん、器用 で、私の声色が巧いって? 先だっての寄合で、親父さんが、若旦那と間違え た。 行きましょう、私が若旦那のコート、帽子で、眼鏡をかけて。 花魁は、 泳ぐように出て来る。 コート、帽子、眼鏡を取ると、花魁が怒る。 そこへ 天下の二枚目、若旦那が登場。 マア、若旦那、洒落がきつい。 私は、ご祝 儀を頂く。 さあ、行きましょう。

 違う、二階でつないでもらいたい、身代わり、分身だ。 嫌です。 めっか ったらどうする、親父さんは柔術ができる、ズドンとやられる。 嫌だ、嫌。  もう頼まないよ、祝儀の一両に羽織、いらないんだ。 えっ、何か言ったでし ょ、ハナに、やります、やります。 あちらで、私のレコ、橘によろしく。

 二階に上がった善さん。 お父っつあん、いいお湯でしたよ。 お父っつあ ん、巧いでしょ。 何が? 若旦那は、今頃、俥に乗ったか、何かつまらない な。 俥屋が、アラヨ、アラ、アラアラ! 何だ、銀之助、うるせえぞ! お 父っつあん、お休みなさい。 お向うから干物を頂戴したのは、お前か、何の 干物だ? ワ、ワ、ワ、の干物です。 何、やぶけてんのか? 大きいのがあ ったようだが何だった? 大きいのは、クジラです。 どこにしまった? 箱 の中にしまっておきました。 何の箱だ? 下駄箱。 下駄箱にしまうか? 干 物箱にしまっておきました。 干物箱?お父っつあんの枕元まで持って来い。  おなかが痛くなりました。 薬を持ってってやる。 治りました。 若旦那は 今頃、花魁にツネ、ツネ、ツネされて、痛い、痛い、痛い! まだ、痛いのか?  大丈夫です。

 あれ、手紙があるよ。 若旦那さまへ、ごぞんじよりか、いい手だ。 一筆 しめし参らせ候、先日はお顔を拝見したとたん、病いたちどころに全快したよ うな心持にあいなり候。 橘さんのお相方、本屋の善公は、もとより嫌な奴な れど、愛想も小想も尽き果てたのは、蒲団の中に越中ふんどしを置き忘れ、臭 気甚だしく、消毒薬やらDDTを振りまいた、チーチーパーパー、カズノコ野 郎。 笑わせやがら。 銀之助、うるさいぞ! うるさいのは、こっちだ。 お い、銀之助! お前、善さんじゃないか、うちの馬鹿に頼まれたな。 お宅の 馬鹿に頼まれた。 お前まで、馬鹿って言うことはない。

 善さん、忘れ物だ、紙入れを洋ダンスの抽斗に。 こら、馬鹿野郎! 帰って きやがったな。 えっ、善公は器用だ、親父そっくりだ。

 長く書いたのは、小痴楽はテンポもよくて、上出来だったから。 芸協でも、 楽しみな若手が育っている。

鈴々舎馬るこの「鮑熨斗」2017/10/03 07:12

 馬るこは、ピンクの羽織、空色の着物で、ボワッと出た。 3月に真打昇進 し新真打と言われていたが、9月に五代目三木助たち三名が真打になり、今お 披露目中、影が薄くなった。 三木助とは入門が同じだが、香盤は一つ私が上、 落語協会の事務局に履歴書を提出した受付順、師匠の馬風が副会長で、忖度が あったかも。 馬るこの名は、おかみさんに付けてもらった。 気に入ってい るので、真打になってもそのままにしたが、三木助とくらべると軽い名前。

 甚兵衛さんは、人がいい。 おっかあ、おナカが空いて、フラッとした。 お 米ないよ、お金もない。 お前さんが働かないからだよ、蟻と一日遊んでいた りして。 隣の山田さんで、50銭借りておいで。 駄目だ、こないだも「お金」 と言おうとして「お」って言ったら、お金ないよ、飴玉ならって、飴玉もらっ た。 私が、女房のお光がって、言いな。 お光さんが言ってるのかい、50銭 でいいのか、1円、5円持ってくか。 何でお光ならいいんだ? 信用が違う、 50銭持ってきな。

 50銭借りてきた、米を買ってくるか。 ダメだよ、魚屋さんで尾頭付を買う と、1円に化ける。 尾頭付をくれ。 目の下一尺の鯛、5円。 50銭にまか らないか。 ふざけんな、目刺し一山なら…、尾頭付どうするんだ。 大家さ んの婚礼か、鮑三つで60銭だけど、50銭でいい。 50銭で買うから、俺から 60銭で買ってくれねえか。 篭に入れてやるよ、大家さんは鮑が好きだ、喜ぶ よ。

 篭に入れてくれたのかい、鮑じゃないか、片貝だけれど、まあ、いいか。 大 家さんのところで婚礼祝いの口上を申し上げないと、教えるから。 二回メシ 食ってないんだ、頭の中、真っ白だ。 今日は結構なお天気でございます、う けたまわりますれば、お宅様の若旦那様に、お嫁ご様がおいでになるそうで、 おめでとうございます。 いずれ長屋からツナギが参りますが、これはツナギ のほかでございます。 とても覚えられない。 口移しで教えるよ。 おもて はまだ明るい、雨戸閉めて。

 こんにちは、森進一です、結婚して下さい、うけ玉川カルテットに新メンバ ー、大田区の、港区の若旦那のうま煮、オノヨーコ様がおめでとうございます、 いずれウナギが参りますが、これはほかでございます。 何となくわかった、 婚礼の祝いに来てくれたんだな。 これは鮑だな、お前の一存か、女房のお光 さんも承知なのか。 1円下さることになっています。 「磯の鮑の片思い」 で縁起が悪い、持って帰れと、鮑を放り出す。 持って帰りますから、1円下 さい。 馬鹿!

 おまんま食いてえよ。 どうした、甚兵衛さん? 鳶頭、これこれこういう わけで。 鮑は、縁起のいいものだ。 大家か、あいつも鮑好きだ。 放り出 したのか、許せねえ。 10円になる啖呵を教えてやる。 大家に、もらった祝 いの品の熨斗紙をはがして返すか、有難く頂くか、聞くんだ。 有難く頂くっ て言ったら、土足で上がるんだ。 鮑は、アマ、今は日馬富士って言わなきゃ あならないか、海女ちゃんが海に潜って、腹につけて上がってくる、女の腹じ ゃないとつかないんだ。 鮑熨斗にするには、仲のいい夫婦が一晩かかってつ くらないとできない、その根本の鮑を何で受け取らないと言うんだ。

 そこで鮑問題を二つ、出してくるから、こう答えろ。 一問、丸く「のし」 と書いてあるのは? 生貝でございます。 二問、寿司屋の暖簾にある「し」 を長く書くのは? 鮑のむきかけで、梨や柿を剥いても同じ。 甚兵衛さん、 大家のところで、一問を正解、二問も正解したが、最終問題が出た。 ポチ袋 に「乃し」とある「杖突のし」とは何だ? 土下座して、アワビを申し上げま すと言っているところ。

 馬るこの「鮑熨斗」、前・新真打らしく、とても面白かった。

入船亭扇遊の「文違い」前半2017/10/04 06:30

 自分より汗っかきの人が前に出ると、嬉しい。 体質なので、ご勘弁を。 男 と女のトラブルは、古今東西。 私、山尾志桜里という方は好きです。 あと は知らない。 これ聞かないことにして下さい。 四宿に花魁がいた。 客の いい所をくすぐる。 ほめようがない人でも、まず、ちょっと驚く。 こちら 容子がいい。 <他人(ひと)は客、おのれは間夫と思う客>。 間夫、虻み たいなツラして。

 よく来てくれたね、お金出来たかい。 十両しか出来なかった。 親父が下 で待っているんだよ。 育ての親の二十両の無心、それで縁を切ってもよい、 今度限りだと。 在から来る角蔵ってのが、いるんだよ。 はい、半ちゃんだ から遠慮はいらないよ。 角蔵さんが六番に。 向う前かい、あの田印、筒抜 けじゃないか。

 上草履で、パターリ、パターリ。 お前さん、生きてたのかい。 ちょっく ら、こけこ、こけこ。 何本手紙出しても、返事がないじゃないか。 忙しか んべ。 こないだ近江屋に登楼(あが)ったのは、わかってるんだ。 あれ、 どうして、上(かみ)の村の十次郎の付き合いだ、浮気ではない。 あそこの アマッコは長いツラで、馬が紙屑籠くわえて、鰻をぶら下げたようだった。 お 前さんは、芯が粋で、上辺が野暮なんだから、私とお前さんの浮名は、新宿中 で知らぬ者はない。 おっ母さんが患っているから、お百度踏んでいる。 医 者が人参という高い薬を飲ませなければ治らないというんだ、二十両もする。  人参なら、おらが村では一分も出せば、どっさりくる。 唐人参だよ、お金、 貸しておくれよ。 ゼニねえだ、懐に十五両あるが、おらの銭じゃない、上(か み)の竹松の馬、引っ張って帰らねばならない。 おっ母さんを殺す気か、死 ぬよ。 もういいよ、頼まない、夫婦約束は今日限りだ。 馬とおっ母さんを、 一緒にするような人とは…。 おらが悪かった、謝る。 金やるから、持って け。 何もお前さんに謝らせて、お金をもらうような、そんな働きのある者じ ゃない。 年期(ねん)が明けたら、ヒーフになる仲だ。

 あんな所から、覗いてちゃあ、わかるじゃないの。 たいへんなツラだな、 鼻が天井向いてて、煙草の煙が上へ昇る。 半ちゃん、十五両出来たから、五 両出しておくれよ。 何とか十五両で話をつけなよ、なろうことなら今日のと ころは…。 いいです、あの親父で生涯苦労させられてもいいんだね。 わか った、わかった、五両、持って行きなよ、謝るよ。 何もお前さんに謝らせて、 お金をもらうような、そんな働きのある者じゃない、すみません。 ここに二 両ある、親父に美味い物でも食って帰れって。 お前さんにこんなことしても らって、いい人だね、ちょっと待っていておくれ。

入船亭扇遊の「文違い」後半2017/10/05 07:07

 裏梯子を降りて、暗い座敷に、年の頃なら三十二、三、苦み走ったいい男、 目が悪いのか紅絹(もみ)の布(きれ)で時々目をおさえる。 お杉か。 芳 さん、待たせたね、ここに二十両ある、別に二両あるから、美味しい物でも食 べておくれ。 すまねえな。 女房の前だ、礼を言わなくてもいいよ。 医者 が下手をすると、目がつぶれると言うんだ。 内障眼(ナイショウガン)とい って真珠という薬をつけねえと。 今夜のところは、泊まっていってよ。 こ れから医者に行ってすぐに療治をしてもらう、目は一刻(いっとき)を争うん だ。 帰るんだったら、そのお金、上げないよ。 お返し申します、すぐに療 治へ行けというのが人情だろう、泊まらないと金をくれないなんて、冗談が過 ぎる。 持ってっておくれ、謝るから。 俺は、何もお前に謝らせて、お金を もらうような、そんな働きのある者じゃない。 これ、いいんだな。 金どん、 手を取ってあげて。

 お杉が二階の手すりから見ていると、芳次郎が杖をついて十間ほど行くと、 杖を放り出して、待たせてあった駕籠に乗って、四谷を目指し行ってしまう。

 煙草を忘れたよ。 元の部屋へ戻ると、手紙が一つ。 「芳次郎様参る。小 筆より」 はーーい、行きますよ。 いい手だね。 「兄の欲心より、田舎の 大尽に妾に行け、いやならば、五十両よこせとの難題。 旦那に頼み三十両だ けこしらえ候ども、後金二十両に差し支え、ご相談申し上げ候ところ、新宿の 女郎にてお杉とやらを偽り、二十両おこしらえ下さるそろ…」。 はーーい、今、 行きますよ! 畜生、この女にやる金だったんだ。

 何をしてやんでえ、銭を渡したら、戻ってくるがいいじゃないか。 煙草な いか。 抽斗、抽斗と…、手紙が出てきたよ。 「お杉殿。芳じるしより」だ と、半ちゃんといういい男がいるのを知らないな。 「金子(きんす)才覚で きず、ご相談申し上げ候ところ、馴染み客にて日向屋の半七に、親子の縁切り と偽り」、なんだ俺の名前が出て来た。

 お杉か、こっちへ入れよ、そこへ座れ。 てえした女郎だ、見上げたもんだ。  私も虫の居所が悪い、むしゃくしゃしている。 色男があるのは、知ってるん だ。 色女のいるのは、ちゃんと知ってるんだ。 このアマ! ゴツン。 お ぶちだね。 ゴツ、ゴツ、ゴツ。 殺すんなら殺せ!

 誰か、いねえけ! 喜助か、向うの座敷で、えかく叩かれているのはお杉で ねえか。 色男に金をやったの、やんねえのと、いっとるようだが、色男とい うわけではごぜえませんと言って、止めてやれ。 アーッ、ちょっくら待て待 て、そだなことを言ったら、おらが色男だということが、顕(あら)われやし ねえか。