三遊亭らっ好の「やかん」 ― 2019/07/01 07:19
6月25日は、第612回の落語研究会だった。
「やかん」 三遊亭 らっ好
「もぐら泥」 蜃気楼 龍玉
「紺屋高尾」 立川 生志
仲入
「糖質制限初天神」 鈴々舎 馬るこ
「もう半分」 五街道 雲助
三遊亭らっ好、師匠は好太郎で、笑点の好楽の孫弟子になる。 師匠がラッ コに似ているなと、芸名をらっ好にした。 佐世保出身、長崎大学工学部で流 体力学を研究したと言ったら、お客様の空気を読めと言われた。 親父は海上 自衛隊、堅い商売。 師匠に入門したいと言ったら、親を連れて来いと。 親 父は絶対許さん、と言っていたが、師匠と面会している席に、好楽が入って来 たら、母さんテレビに出てる人だ、どうぞよろしくお願いいたします、と頭を 下げた。 親父は、いい歌舞伎役者になれ、と。 師匠は羽田まで車で迎えに 来て、「貞吉、貞吉…」と稽古をつけてくれた。 後で、ハンドルを握っている 格好で「貞吉、貞吉…」とやったら、怒られた。(羽織を脱ぐ)
知ったかぶりをする人がいて、先生と呼ばせたりする。 「先に生れた」と か、「先ず生きている」とも言うが、「先に生えた」というのが好き。 久し振 りだな、愚者。 先生、いいあんべえのお天気で。 よいあんばいのお天気で、 と言え。 気象庁に勤めてるんですかい。 浅草の観音様ではない、くわんの んぼさつ様だ。 出たの出ないの、じゃない、出たの出たの、だ。 猫も杓子 も、じゃない、猫も赤子も、だ。 ちぢれっ毛の高島田だね、ゆいにくい。 う ってんばってん、じゃない、雨天半纏、だ。 月とすっぽん、じゃない、月と 朱盆、赤くて丸きものだ。 河童の屁、じゃない、木っ端の火、だ。 わかっ たか、愚者。
先生は何でも知っているんですね。 森羅万象、神社仏閣、天声人語、朝日 新聞、嫁入り、四ツ目、目の子勘定。 奥さんてのは、何で奥さんと言う? 奥 で産をするから奥さんだな、八階で産をするなら八海山。 魚の名で、クジラ はなぜクジラ? クジラは、魚類ではない、缶詰類。 潮を吹く時間が決って いて、8時57分、58分、59分ときて、そこで吹く、9時ラーーッ! イワ シは、何でイワシってんですか? お茶をお上がり。 犬は知っているだろう、 電信柱に小便をする。 イワシは海の中にいる、電信柱がないから大きな岩に 小便をする、岩にシィー、岩にシィー、でイワシとなった。 テェは、何でテ ェってんですか? テェは、何十匹と隊をなして泳ぐから、テェだ。 じゃあ、 マグロは? マグロは群れをなして泳ぐ、海が真っ黒になるから、マグロだ。 でも、切り身は赤いね。 刺身では泳がぬ。 コチは、何でコチってんで? あ いつは向こう側を泳がないな、コチばかりだ。 ホウボウは? 一箇所にかた まって泳がないな。 ウナギは、何でウナギってんですか? 昔は、ヌルと言 った。 鳥の鵜がつかまえようとしたけれど、首にからまれて難儀をした、鵜 が難儀をしたからウナギになった。 じゃあ蒲焼は、何で蒲焼? 馬鹿に旨い から蒲焼だ。 ひっくり返しただけですか。 ひっくり返さないと、焦げるだ ろう。
茶碗は、何で茶碗? ちゃわんと置いてあるから、茶椀だ。 土瓶は? 土 で出来ているから、土瓶。 鉄瓶は、鉄で出来ているから、鉄瓶だ。 やかん は? アルマイトか何かで出来てますよね。 やかん、昔は水沸しと言った。 戦国の昔、雑兵に飲ませるため、水沸しを下げて行った。 永禄4年、甲斐の 武田信玄と越後の上杉謙信とが、信濃の川中島で対峙した。 敵の夜襲に不意 をつかれた上杉勢、ある若武者が兜を身につけようと探したが、見つからない。 仕方なく、代わりに、煮えたぎっている水沸しの湯をザーーッと空け、頭にか ぶって飛び出した。 敵をバッサバッサとなぎ倒し、八面六臂の大活躍。 そ こに現れたのが、那須与一宗高。 那須与一は、屋島の戦いで、時代が違うで しょう? 頼まれれば、どこにでも出る。 那須与一宗高、弓を振り絞って、 ひょうと矢を放った。 その矢が、若武者のかぶっている水沸しに、カーーン と当った、矢がカーーン、矢カンになったな。
蜃気楼龍玉の「もぐら泥」 ― 2019/07/02 07:08
蜃気楼龍玉、長身で、いかにも落語家らしい風貌だ。 浅草寺賽銭泥、仁王 門の小咄をやり、真打と言っても、この程度、あまり期待しないように、と。 押し込み強盗が徒党を組んで、料理屋の回りを取り囲んだ。 親分が入って「金 を出せ」と脅す、ないというと、「昼間に入った五十両を出せ」と、確かめてあ った五十両を奪う。 腹が減ってるんで、何か食わせろ。 家も商売、お代を 頂かせて下さい。 何か、こしらえろ。 鯉の洗いに、鯉こくで、如何で。 い いな。 美味かった、代はいくらだ? 鯉が時化で、五十両。 やむなく払っ て出ると、外の手下が、中の首尾は? シーッ、コイが高い。 これで、終わ ってもいいんですが…。
もぐら泥棒というのがある。 昼間は表からじっくり眺めて、あたりをつけ る。 それを頭に入れて夜、泥棒に入る。 昔の家は、土台がしっかりしてい ない。 敷居の下に穴を掘って、手を入れて掛金を外す。
おかしいな、どうやっても勘定が合わない。 (主人が)ソロバンを、チュ チュチュチュ、おかしいな。 おい、あくびしながら、亭主に返事するな。 さ っさと、寝ちまいな。 お前、何か買ったものはないか? 安かったんで、お 光さんとお揃いの反物を買いました。 いくらだ? そんなにしたのか、弱っ ちまうな。
もぐらが、敷居の下を掘り始める。 (いったん手を叩き、手を入れる。) 桟 (さん)がねえ、ちきしょう、こんなところか、間違えたか、なかなか届かな い。 どうやっても、勘定がおっつかないんだ。 どうやっても、おっつかな い、これが。 お前、何をぶつぶつ言っているんだ。 何も言ってませんよ。 二円ばかり届かない。 二寸ばかり届かない。 おい、うるさい、二寸なんて 金はない。
アッ! おい、いい眠気覚ましだ、土間の隅を見てみろ。 手が、生えてる。 泥棒だよ、ありがてえ、ふんじぱって差し出そう。 細引、持って来い。 そ れは股引だ。 これで、どうだ。 痛え、痛え! 手が千切れる。 何か深い訳 があるに違いない、勘弁しておやりよ。 おかみさんですか、そう、深い訳が あるんで、たった一人のお袋が寝たっきり、ほんの出来心で。 お前さん、今 の内に逃がしちゃいなさいよ、子分がいて仕返しに来たりするから。 そうで す、これが先駆け、火をかけます、65人からの手下がいる。 突き出すよ、お 袋一人養えないで、65人の手下がいるわけはない。 ごもっともで。 仲間が 火をつける。 どうせ借りてんだ。 見てますか、頭、下げてます。 どうし ても駄目なのか、ああ、そうかい、ふざけんな。 野郎! 痛い、嘘です、親 方、大将。
冗談じゃないよ、静かになった、寝ちまったのか。 どうして、犬が来るん だ。 片足上げて、何しようてんだ。 アッ、やりやがった、ご丁寧に砂まで かけやがった。
酔っ払いが来る。 飲み屋のおやじも嫌なことを言う、今度金を持って来な きゃあ飲ませないなんて、犬が出て来たぞ。 ここで、小便でもぶっ放すか。 おい! 驚いた、いきなり声出して、誰だい? 足元、見てみろ。 何やって んだ、そんな所に寝てないで、家へ帰って寝たらどうだ。 盗っ人だ。 敷居 ごと家を持ってこうとは、気が大き過ぎる。 男の中の男と見込んで、頼みが ある、手を貸せ、一杯飲ませる。 なんだ、縛られているのか。 どうすりゃ あ、いい? 忍び返しの中に、がま口と小刀が入っている。 取ってくれ、小 刀で細引を切るから。 どこ、触ってんだ、ハハハ、遊んでんじゃないよ。 お い、いい商売だな、がま口、ずいぶん目方がある。 小刀を取ってくれ。 慌 てる泥棒は貰いが少ない。 お前、いい商売だな、二千円近く入っている、こ れだけあれば、お前にごっつおうになることはない、方々の付け払っても。 お 前、本当に動けないの、これ、貰っておくから。 アッ、ちきしょう、ドロボ ー!
立川生志の「紺屋高尾」上 ― 2019/07/03 07:25
令和になって二か月、落ち着いてきたのかどうか、ヤミ営業やってたお笑い が話題だけど、パッと見て詐欺集団とわからないのは失格。 今は自分でやっ ているが、前座の頃は立川企画、弟さんがやっていた。 どちらかというと立 川企画がヤミ営業してた。 談志の鞄持ちをしていた31年前、3千円×5日で 1万5千円というのが、バブル真っ盛りの頃の月収。 談志が練馬区石神井台 にいたので、大泉学園で部屋を探した。 1万円台、屋根付き、というのは駐 車場だった。 四畳半一間、1万7千円というアパートに入れてもらった。 貧 乏学生が多かったが、イランからの出稼ぎの人を一人入れた。 貧乏学生が引 っ越して行き、イラン人が増えて、日本人は僕一人になった。 近所ではコー ポ・テヘランと呼ばれていた、植村荘という名だったが…。 サッカーの日本 対イラン戦などは、東京にいながら完全アウェー、怖かった。 最後まで、日 本の領土を守りぬいた。 24、5歳で、ほっそりしていた。 噺をして、おひ ねりをもらうと、千円札が入っていた。 学習能力がある。 九州でおばあさ んに、おひねりをもらったら、中からビスケットが出て来た。 よく耐えた、 生きていた。 でも、小さん師匠、志ん朝師匠とお目にかかれた、楽屋が一緒 で。 若手のコンクールがあって、志ん朝師匠が一番上は誰? と訊いて、一万 円、チューハイでも飲んで、とくれた。 その姿だけでも、カッコいい。 ウ チの師匠談志もトリを取っていた、着替えて、弁当の残り全て持って行った、 カッコ悪い、恥ずかしい。
身近でカッコいいのが、四代目の左団次、高島屋。 踊りを習いに通ってい たが、洒落が好きで、楽屋を訪ねると、気を付けなさいよ、噺家さんが来てい るから、何かなくなるよ、なんて言う。 立川左団次と一緒の時、市川左団次 も付いて来た。 夜中に、立川左団次の家で市川左団次がピンポンと鳴らし、 「左団次です」。 「わかってるわよ」、と奥さんが出ると、市川左団次。 こ ういう洒落をなさる。 博多で芝居が終ってご飯に行き、高級クラブを二三軒 ハシゴし「生志さん、飲んで」と、「もう、久しぶり、パパ」なんて言われてい る。 79歳、80歳におなりになる。 せめて送らせてと、タクシーで何メー ターか行くと、晩くまで有難う、一万円渡してくれる。 カッコいい、落語の 世界にこんな人はいない。 こないだのお釣り返せ、と言われたことがある。 持てる人は、持てようとしなくても、持てる。 今も昔も変わらない。
吉原、向こうは商売。 「傾城の恋はまことの恋ならで、金持って来いがほ んとのこい也」、「書いた起請も当てにはならぬ、筆に狸の毛が混じる」、「傾城 に誠なしとは誰(た)が言うた、誠あるまで通いもせずに」。 その傾城に、こ んな誠があったという一席で。
久蔵どうした、三日飯を食わねえって、死んじゃうよ。 親方。 起きろ、 薬か、医者か。 あっしの病いは治らない、お医者様でも、草津の湯でもとい う病いで。 惚れた病いは、恋患い。 職人じゃないか、連れて来い。 やっ ちゃったらいい、親方が手でも足でも押えてやる。 下へ行って下さい。 言 って見ろ、相手の名前。 驚きますよ。 おい、お前、上がって来い、久蔵が お前に恋患いだ。 誰がおかみさんに惚れますか。 実は、三日前に初めて吉 原へ行った、夜、花魁道中になって、天人が天下った。 ヒエッーーーッ! 息 しないと、死ぬよ。 ひときわ奇麗なのは、三浦屋の高尾太夫だった。 帰っ て来て、小便しても寝られない。 何を見ても、高尾に見える。 親方ーーッ! 気持悪い。 逢えますか? 大名道具という太夫だが、花魁は売り物だ、金を 持って行きゃあな。 高尾だって、八王子だって。 いくら? 十五両はいる かな。 あっしに、稼げますか。 一生懸命三年働け、俺が逢わしてやる。 久 蔵はシャケの茶漬で、十三杯食った。 それからは、十五両三年で高尾、十五 両三年で高尾…、と。
あっという間に、三年の月日が経つ。
立川生志の「紺屋高尾」中 ― 2019/07/04 07:05
あっという間に、三年の月日が経つ。 休みが欲しい。 月々預けたお金、 いくらになりましたか。 十八両二分、よく貯めた。 あと一両二分貯めろ、 二十両にして、お袋に親孝行をしたらどうだ、喜ぶぞ、そうしたらお前を養子 に取って、あとを継がせたい。 十五両下さい。 何を買うんだ。 知ってい るでしょう。 (口の中で)タカオ、タカオ、買う。 素人には無理だ、ジュ ウシマツかなんかで我慢できないか。 そうだった、三浦屋の高尾太夫か、格 式とかいろいろある、どうしようかな。 八百屋の奥の先生、薮井竹庵、病気の患者がいても呼ばないけれど、呼んで来い。 医術の評判はよくないけれど、 女郎買いは免許皆伝だから。
先生は、医術の評判はよくないけれど、女郎買いは免許皆伝だそうで。 陰 で言われているのは知っていたが…。 職人は、本当のことしか言わない。 生 きる者は生きる、死ぬ者は死ぬ。 紺屋の職人ではなく、流山あたりのお大尽 の若旦那と、お抱えの医者ということにして…。 久ちゃんこっちだ、支度を してくれると、若旦那然とはなったが、真っ青な手をしている。 手は袂に入 れて、何を言われても「あい、あい」と重ね言葉で。 僕、若旦那、私のこと は、「おい、薮井」と呼ぶように。
神田お玉ヶ池の紺屋六兵衛の店を出て、江戸町二丁目の三浦屋の高尾太夫の ところへ。 いつも大名ばかり相手にしているが、この日はたまたま空いてい た。 若旦那はんのお相手、しとうござんす。 京の言葉、色っぽい、上七軒 に行ったことがあるが、そうどすえ、とくる。 国を訊いたら、横須賀どす。 花魁言葉、里言葉は、山の手の古い奥様に残っていて、息子は東大一発なんざ んす、産んだ時はなんざんす。 太夫職は、八段階の一番上の位。 歌舞音曲、 和歌俳諧、華道茶道に通じ、チンチロリンの胴元も取れる。
上草履がパターーン、パターーン、久蔵の胸の高まりは張り裂けんばかり。 朱羅宇の長煙管で、ぬし、煙草を。 手を袂に入れているから、そのまま袖で 受ける。 そんな久蔵を、高尾は見事にもてなして、一人前の男にしてくれた。
立川生志の「紺屋高尾」下 ― 2019/07/05 07:20
先に床を出たのは、高尾。 男に寝顔を見せるのは女の恥という美徳があっ た。 現代のサラリーマン、寝ている内に出かけ、寝てから帰る、起きている 顔を見たことがない。 寝覚めに一服喫いなんし、今度、いつ来てくんなます? 「あい、あい」。 いつ来るんざます? 三年経ったら、来ます。 きつうこと を。 三年経たなきゃあ、金がない、花魁、すみません。 今回はお終い、こ れを励みに生きていけます、久さん元気でと言ってくれますか。 あなたに嘘 をついてはいられない、私は紺屋の職人で…。 ヌシがそうして詫びなんすな ら、ワチキもお詫びを、疾うに知っておりました、紺屋の職人さんと。 ぐっ すり寝ている、ヌシのその手を。 知ってて、あっしを、ハハハ、余計情けね えじゃないか、ハハハ、とんだ笑い者で、間抜けな奴だと思ったんでしょうね、 笑ってやって下さい。 どうしてワチキが、ヌシを笑うなんぞ、手を見て、涙 がこぼれんした、隠さなくていいざんすよ、青い手が何よりヌシがヌシである 証しざんす。 来年三月十五日、年が明けたら、ヌシの所に参ります。 ワチ キは本気ざます。 女房はんにしてくんなまし、ヌシの本気に惚れました。 女 房はんにしてくんなますか。 喜んで。 来年三月十五日、眉を落として、歯 を染めて、参ります。 二度と、この里に来ないようにと、三十両を渡してく れた。
日本人、久蔵、高尾太夫に逢えました。 名代にと言って、親方によろしく、 と。 来年三月十五日、年が明けたら、高尾が来ます。 花魁、尾がいらずだ、 馬鹿な。 証拠に三十両預かってきた。 久蔵は、「来年三月十五日、高尾が来 る」、「来年三月十五日、高尾が来る」と言いながら、一生懸命働く。 周りの 者も、「おい、来年三月十五日」と。
三月十五日、一丁の駕籠が、エイホッ、エイホッ、とやって来る。 丁稚ど ん、ご当家に久蔵さんという方がおいでで? 眉を落として、歯を染めて、高 尾が来た。 親方、来ました、来年三月十五日が!
久さん、お元気! 三月十五日ざんす。 はい、有難うございます。 親方 はじめ、職人たちも、もらい泣きした。
夫婦で一軒店を出す。 高尾太夫に、また来てくんなまし、と言われるので 大評判。 他に何か、染める物はないか。 フンドシでも染めるか。 俺はも う染めてもらった。 傾城にも、こんな誠があったという「紺屋高尾」の一席 で。
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