中川眞弥さんの「『文字之教』を読む」[昔、書いた福沢181]2019/12/25 07:02

         『文字之教』を読む<小人閑居日記 2003.6.25.>

 6月の第三金曜日には、毎年「ジャーミネーターの会」がある。 近年は有 楽町の日本外国特派員協会が会場になっている。 高校時代に、日吉の慶應高 校と三田の女子高、それに私の志木高で、新聞を作っていた仲間の会だ。 「ジ ャーミネーター」というのは、発芽試験器だそうで、三校の新聞部が新人研修 のために出していた研究紙の名前だった。 洒落た先輩(生意気な高校生)が いて、名前にしても、そんな新聞を出していたことも、大したことをやってい たものだと思う。

 毎年スピーチがあるが、今年(20日)は幼稚舎の舎長をなさった先輩(9 年上)中川眞弥さんの「『文字之教』を読む-徳富蘇峰の指摘-」という話を聴 いた。 『文字之教』は、福沢諭吉が明治6年に刊行した子供向きの国語教科 書である。 従来の難しい四書五経の素読といった方法でなく、やさしく、漢 字をわずか928種しか使わずに、日常の役に立つ言葉や文章が身につくよう に工夫されたものだ。 『第一文字之教』『第二文字之教』『文字之教附録 手 紙之文』の和綴三冊本、『手紙之文』は草書体の木版刷り、実際に手紙を書くた めの手本になっている。 今日、ほとんど、読んだ人はいないだろう。 中川 眞弥さんの話を聴くうちに、それが、素晴らしいものだということが、徐々に わかってきた。

      蘇峰の挙げた福沢文章の特色<小人閑居日記 2003.6.26.>

 『文字之教』がどんなものか、『第一文字之教』から例を示す。

    第七教

   酒  茶  飯  砂糖

   買フ 喰フ 良キ 悪キ

  酒ヲ飲ム○茶ヲ飲ム○飯ヲ喰フ○子供ハ砂糖ヲ好ム

  ○良キ子供ハ書物ヲ買テ読ミ悪キ男ハ酒ヲ買テ飲ム

    第十五教

   角  尾  毛  髪

   髭  魚  蛇  坊主

  牛ニ角アリ○犬ニ尾アリ○魚ニ毛ナシ○蛇ニ足ナシ○女ニ髭ナシ

  ○女ニモ男ニモ髪アレドモ坊主ニハ髪ナシ

 徳富蘇峰は、明治23年4月『国民之友』80号に、前月(つまり出版から 17年を経て)この『文字之教』を読み、福沢について、世間が認める新日本 の文明開化の経世家としてではない一面、つまり文学者としての福沢の役割、 日本文学が福沢に負うところの多いことを説明するのに、この本が「大なる案 内者」となる、と書いた。 福沢が、すでに明治6年の時点で、平易質実、だ れでも読むことができ、だれでも理解できる「平民的文学」に注意したことを 知るのだ、と。

 蘇峰は、そうした「平民的文学」の先駆者としての福沢の文章の特色として 七つを挙げる。 1.その言葉の使い方に警句(「警策」エピグラム)があって、 一種の気迫がある。 2.身の回りの卑近な例を引くので(「直截」)、誰でも理 解しやすい。 3.他人が考えもしない発想(「非常の事を通常に云う」)。4. 比較が巧みで難しい理屈が納得しやすい(「不釣合」に突飛な対比)。 5.用 語の意味をつまびらかにして、分かりやすい(「死中に活」)。 6.諧謔、頓智、 諷刺、嘲笑、中でも最も多いのは嘲笑。 7.「嘲笑的な特色と相伴ふて離れざ るものは、懐疑的香味是なり。」

 この七つのうち、5までは、人がもし子細に学習すれば、その一片を学ぶこ とができるだろうが、6.7.は福沢に天性のもので、実に旧日本破壊、新日 本建設に際して、人々を目覚めさせるのに一大利器になったという。

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