藤永貴之第一句集『椎拾ふ』2020/03/26 07:04

 藤永貴之さんの第一句集『椎拾ふ』(ふらんす堂)を、昨秋ご恵贈頂いて、感
想をお送りしていた。 藤永貴之さんとは、俳誌『夏潮』の初期に編集でご一
緒し、編集作業をパソコンのやりとりで進めていたので、私の拙劣なパソコン
技術をフォローして頂いたことがあった。 慶應義塾大学俳句研究会の出身で、
大学卒業後は郷里の九州で教職に就かれているということを聞いていただけで、
詳しいことは何も知らなかった。

 闘病中だった本井英主宰が、これまで『夏潮』の雑詠欄で藤永貴之さんの多
くの句を採り、心をこめて句評し読み解いたものを、長文の「序」としてお出
しになっている。 学生時代の先輩・後輩からの、羨ましい師弟関係である。 
「筆者は藤永さんが「夏潮」の雑詠にどんな句を投じてくれるか、毎月ドキド
キして待っている。一方、藤永さんも、それらのうちのどの句を筆者が選ぶか、
ドキドキして待ってくれている事だろう。お互いに毎月試されている。毎月が
真剣勝負である。/二人で力を合わせてここまでは来た。さてこれからどう進
まれるかは、ご自身で考えるより方法はあるまい。」

この第一句集は、2006年以前から2017年までの作句年代順の章立てになっ
ているので、俳句から福永貴之さんの年譜のようなものが、浮び上がって来る
ところが、興味深かった。
 「2006年以前」<出戻りの姉がぶらんこ漕いでをり><大いなる冷蔵庫ある帰省かな><扇風機家庭教師のわれに向き><立冬と書くや白墨もて太う><冷たき手握れば握り返さるゝ>
 「2007年」<春暁のまた読み返す手紙かな>
 「2008年」<夜桜に体育館のまだ灯り>
 「2009年」<枝豆を喰ひつゝいつか人の親><梨剥いてくるゝ人あり梨を食ふ>
 「2010年」<結婚をして初めての新茶かな>
 「2012年」<肩にゐる子どもとも鷽替へにけり>
 「2013年」<みひらいて乳を吸へる嬰(こ)去年今年>
 「2014年」<教卓の引出しの捨扇たり><ボーナスの明細ちらと見て仕舞ふ>
 「2016年」<踞(かが)まりて子はなほ小さし椎拾ふ>
 「2017年」<教育実習生明日から田植手伝ふと><吾子もゐる運動会の楽聞こゆ><十三夜一人のくらしにも馴れて>

 私が感心した句、気に入った句を、十句挙げさせてもらう。
出戻りの姉がぶらんこ漕いでをり
船室に一人となりし昼寝かな
はら\/と女瀧の帯の解けつゞけ
春燈の楼閣なしてフェリー航く
セーターの教授寝癖でない日がない
吾子もゐる運動会の楽聞こゆ
秋澄みて小国(をぐに)は杉生美しき
鯊舟を下りてまた釣る鯊の秋
杜ならぬところはなべて青田かな
秋の蚊のまとはることよ物書く手

 私が知らなかった言葉、読めなかった字。
「きらゝむし」「堅香子」「どんがめの螯」「杳杳」「蠑螈」「浦曲」「ド・ロさま」
「銭荷」「通草」「慍り」「かのしゝ」「生水」「磯馴松」「鵆」「種池」「種案山子」
「羨道」「海栗」「杉生」「のうさば」「矗々と」「引盃」「楷」

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