春風亭一之輔の「らくだ」その三2020/07/27 07:06

 大家に言ったのか。 言いました、青龍刀、カラコロカラコロ、塩ビューーッで……、カンカンノウをぜひ見てえって。 じゃあ、向こうを向いて、しゃがんで頂けませんか。 それ、やめてもらっていいですか、ヤイとか、オイとか、言われたほうがいい。 大家が出すわけがない。 (死骸を背負わされて)エッ、何ですか、気持悪い、アッ、アッ! この野郎の体、俺に預けろ、腕、ボキボキやって背負い易いようにしてやるから。 カンカンノウを歌え。 そのへんのガキだって、知ってる。 歌え、殺すぞ。 重い、重い! はいはい、アンヨは上手、転ぶはお下手。 ここか。

 大家さん、こんちは。 すみません、大家さん。 ♪カンカンノー、キューライス!(手を叩いて、歌う) アッ、アッ、アッ、婆さん。 (らくだを踊らせる) 酒、出せーーっ。 持って行きます。 屑屋、歌うんじゃない、お前が止めれば、踊りも止める。 煮しめは、どうした? 持って行きます、ごめんなさい。 アーーア、驚いた。 婆さん、お婆さん(と、倒れているのをかかえる)、人殺しーーッ。 一日に、二人死んだんだ。 死んじゃいないよ、気を失っただけだ。

 じゃあ、ザルと秤を。 表の八百屋に行って来い。 菜漬けの樽、借りてこい、早桶の代わりにするんだ。 貸すの貸さないのと、言ったら。 カンカンノウ。 空いたら、洗って返すからって。

 こんちは。 菜漬けの樽、貸して下さい、空いたら、洗って返すから。 何に使う? 早桶の代わりにする。 誰が貸すか。 ここは出しておいた方がいい、カンカンノウを踊らせる。 見てえよ。 わかりました、今度は上手く歌おう。 どこかで、やったのか? 大家さんのとこで。 天秤棒も縄も、持ってけ。

 お前が行ってる内に、大家の婆あが酒を持ってきた。 変な酒だったら、ぶっかけてやろうと思ったら、いい酒だ。 どうだい、やんねえか、死人かついで、汚れてるんだ、お清めだ。 下戸か。 飲めよ、やさしく言ってる内に飲め。 いただきます。 こんな大きいので…、これ、らくださんのとこにあったんですか、こんな、ナミナミ。 アッ、ご馳走様。 ザルと秤を、十四を頭に五人の子供がいるもんで。 いける口なんだから、飲め。 空きっ腹に飲むと、あとグズグズになる。 やさしく言ってる内に飲め。

 オーーッ、いい酒ですね。 さっき、一息に飲んじゃったんで、わからなかった、いい酒だ。 十分で、今日は本当にいい勉強をさせて頂きました。 親方は、偉い。 兄弟分てことは、本当の兄弟じゃない、盃を交わしただけで。 金がなくて、これだけやる。 私、こういうの働くの、嫌いじゃない。 元は道具屋の親爺でして、二代目。 これ(酒)でしくじって、世話焼きで、手前えの頭の蠅も追えないのにって、親父に言われて。 困っている人がいると、働くのが性に合っている。 いいですね、こうやって酒も頂戴して。 はい、ザルと秤を。 駆けつけ三杯って言う。 やめましょう、たんと頂きました。 子供たちが口パクパクして待っている。 飲めって、言ったんだよ! 大きな声、出して。(と、もう一杯飲む)

 みんな、いい人で、長屋の人、みんな貧乏してるのに。 月番の隣の、辰っつあん、下駄の歯入屋さん、やさしい人でね、死にゃあ仏だ、出してやろうよって、言って。 でも、大家さんがねえ、好きじゃない、威張ってましてね。 端(はな)、見てみてえって、カンカンノウ。 端から出せばいい、どうかと思う。 こっちだってわかっているよ、かけた情けは水に流すってぐらいのことは。(と、飲み干す) 何を大家だって、言いたくなる、ハハハ。

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