少年小説、SF、そして旧訳・新訳2021/01/30 07:09

 池澤夏樹・池澤春菜著『ぜんぶ本の話』7章の内、児童文学が2章、少年小説が1章、SFが2章、ミステリーが1章、読書家三代の家の話が1章という構成と配分になっている。 「大人になること」と題された少年小説のジャンルは、まずスティーヴンソンの『宝島』、そしてアームストロングの『海に育つ』のような文字通り成長小説だ。 ウェストールの『水深五尋』と合わせて海洋物、友情・勇気・工夫・倫理、そういう諸々がうまく絡み合う冒険物語は、なんといってもイギリス物が一番で、少年小説も児童文学と同じくイギリスが一番だ、という結論になっている。 ちなみに少女小説は、『赤毛のアン』『小公女』『あしながおじさん』が、ほぼ題名だけ挙げてある。

 夏樹さんの中学、ご存知練馬区立大泉第二中学校は、大きな学校が二つに分かれたばかりで、若くて元気な先生が多く、雰囲気がよく、日本の学校にしては珍しく居心地がよかったという。 そこの先生たちが「面白いぞ」と回してくれたのが、創刊号からの『SFマガジン』だった。 その頃から早川書房が次々とSFを出版し始め、そのキーマンが福島正実、『SFマガジン』初代編集長。 どれもはじめて知る作家ばかり、どの作品にも科学的知識がひねった形で入っている。 どれも新鮮で、夏樹さんは夢中になった。

 私はSFが2章もあれば、あの方の名前が出て来るんじゃないか、と思いながら読み進めていた。 案の定、SF2「翻訳書のたのしみ」の章「旧訳・新訳問題」に、こうあった。 春菜さん「たとえばハインラインの『夏への扉』は新訳が出た。この作品が珍しいのは、旧訳も品切にせずそのまま出していること。新訳と旧訳と両方が出ているという状態なの。旧版は福島正実訳で新しいのは小尾芙佐さん訳。これがどちらも素晴らしい。」 夏樹さん「定評のある作品の新訳を出すのは大変。でも河出の『世界文学全集』(池澤夏樹=個人編集)ではそれが突破できた。具体的には、たとえば『存在の耐えられない軽さ』はそう。」 小尾芙佐さんは、私の恩師小尾恵一郎先生の奥様で、その翻訳書については、「等々力短信」や「小人閑居日記」で、何冊か取り上げてきていたので、これを読んで大変嬉しかった。

「あなた、いい学校に行きなさいよ。」<小人閑居日記 2013.3.10.>
鎌倉文学館、小尾芙佐さんの展示<小人閑居日記 2013.4.19.>
等々力短信1084号2016.6.25.『書店主フィクリーのものがたり』
等々力短信1126号2019.12.25.『サイラス・マーナー』

 SFの訳者は若い世代が少ない、大森望さんたちの下の世代がなかなか育たないという話で、春菜さんがあまり知られていないけれど面白そうな本を原書で買ってあり、翻訳をやってみようかと思っているといい、夏樹さんに背中を押されている。 夏樹さんが、そうやってカンを働かせて見つけた本が翻訳されて話題になると、ちょっと得意になるね、と。 以前カナダに行った時に、空港で買った本を飛行機の中で読んだら、これがとても良い、帰国してさっそく新潮社の編集者に「ためしに読んでみて」と伝えたら、すぐに「これはいいから出します」となった。 アステリア(アリステアの誤記、出版社に連絡したら、次の増刷で修正する由)・マクラウド、そのあと新潮社は彼の本を三冊出した。 一方、海外で見つけて、「すごい」と新潮社の知人に勧めたら、「来週発売です」と返されたのが、ジュンバ・ラヒリの『停電の夜に』、ちょっと遅かった。

等々力短信1091号2017.1.25. 極北の人情噺(アリステア・マクラウド『冬の犬』)
等々力短信1022号2011.4.25.『停電の夜に』

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