フェイクニュース、自信がある人ほど騙される2021/09/24 06:59

 「山口真一のメディア私評」、9月10日の見出しは、「近づく衆院選 フェイクニュース 己を過信せずに」だった。 選挙のたびに「フェイクニュース(偽情報)」が生まれ、拡散するようになった。 例えば、2016年の米大統領選では、「ワシントンのピザ店が児童買春組織の拠点になっており、ヒラリー・クリントン候補とその選挙対策責任者が関わっている」というフェイクニュースが広まった。 その結果、この情報を信じた人が当該ピザ店で発砲事件を起こすに至っている(ピザゲート事件)。 研究によると、投票前の3カ月間で、当選したドナルド・トランプ氏に有利なフェイクニュースは約3千万回、クリントン氏に有利なフェイクニュースは約760万回、フェイスブック上で拡散された。

 山口真一さんは、日本国内で流された実際の国内政治関連のフェイクニュース10件について、昨年9月、約6千人を対象に調査を行った。 対象としたのはメディアによるファクトチェック(事実確認)で誤りと判明している情報。 調査の結果、たった10件の事例にもかかわらず、なんと28・2%の人がそのうち一つ以上に接触していることが分かった。

 さらに恐ろしいことに、それらのフェイクニュースに接触した人の中で、5人に4人以上がそれを偽情報と気付けていなかった。 調査対象は15~69歳だったが、どの年代でも大体80%くらいの人は、フェイクニュースにだまされていたのである。

 このような情報環境は日本の民主主義社会に何をもたらすか。 山口真一さんが昨年1月に行った実証実験では、フェイクニュースは「弱い支持層」の考えに対して最も大きな効果を持つことが明らかになった。 「弱い支持層」というのは、いわゆる無党派層との重なりが大きく、人数としては多いため、選挙結果を左右する。 フェイクニュースは我々の民主主義の根幹を揺るがす力を持っているのである。

 忘れてはいけないのが、インターネットの普及以前にもデマやプロパガンダといった偽情報は常に社会に存在していたということだ。 インターネットという道具は、それを拡散しやすくしただけに過ぎない。 今後もフェイクニュースが根絶されることはないし、フェイクニュースが存在しない社会というのはゆがめられた不自然な社会でもある。 なぜならそれは、強権的な言論統制によって達成される社会にほかならないからだ。 だからこそ、我々自身がこの新しいインターネットという道具の特性を知り、適切な使い方・注意の仕方を覚えて身を守るしかない。

 最近、米国でフェイクニュースの真偽を判断する能力についての、面白い研究結果が発表された。 実に4人に3人は自身の能力を過大評価しており、そのような人は真偽判断能力がむしろ低い傾向にあることが分かった。

 フェイクニュースには誰でもだまされるし、自信がある人ほど危険だ。 一人一人が己を過信せず、多様な情報源から情報を摂取し、自分と異なる意見にも耳を傾ける。 そのうえで選挙に臨むことが、我々の民主主義を育むのである。

 山口真一さんのこの結論には、「多事争論」の福沢諭吉を学んで来た私も、大賛成である。