井上靖の自伝的映画『わが母の記』2021/11/10 06:53

 井上靖の自伝的作品をベースにした映画『わが母の記』をテレビで見た。 松竹2012年の原田眞人(まさと)監督作品。 作家の井上靖でなく伊上(いがみ)洪作を役所広司、母八重を樹木希林が演じている。 父母は長女(キムラ緑子)夫婦と伊豆の湯ヶ島にいて、父隼人(三國連太郎の遺作となった)が亡くなるところから始まる。 自称古美術商の次女(南果歩)と洪作は、東京に住んでいる。 流行作家の洪作家では、妻(赤間麻里子)長女(ミムラ)次女(菊池亜希子)や女中、編集者などが、印税の捺印に大忙しで非常に騒がしいのだが、中学生の三女琴子(宮崎あおい)は趣味の写真に夢中で手伝わない。 この宮崎あおいが重要な役回りで、やがて、担当編集者の下っ端・瀬川(三浦貴大)が、洪作家の書生兼運転手になり、大学生になった琴子と軽井沢の別荘で認知症になった八重の面倒をみたりすることになる。

 伊上洪作は5歳から8年間、伊豆湯ヶ島の土蔵で「土蔵の婆さん」曾祖父の妾、おぬい婆さんに育てられた。 雨の日、母(その母をタイトルバックに名はないが、内田也哉子が演じている)や妹たちは、洪作を残して、台湾へ行ってしまい、洪作はずっと母に捨てられたのだと、思っている。 映画は、そこに一つの結論をつきつけることになるのだが、それはひとまずおいておく。

 私は、井上靖の『わが母の記』三部作、母の80歳から89歳を描いた「花の下」(1964(昭和39)年)、「月の光」(1969(昭和44)年)、「雪の面」(1974(昭和49)年)は読んでいなかったが、若い頃に「あすなろ物語」(1954(昭和29)年)や「しろばんば」(1962(昭和37)年)を読んでいたので、井上靖が幼い頃、湯ヶ島の土蔵で曾祖父の妾、(おぬいでなく)おかの婆さんに育てられたことは知っていた。 後年、講談社文芸文庫の井上靖短篇名作集『補陀落渡海記』所収の「グウドル氏の手套(てぶくろ)」で、さらにそのへんの詳しい事情を読んだのだった。

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