私の祖母も芸者で、医者の妾2021/11/16 07:13

 NHKの「ファミリーヒストリー」は好きで、よく見る。 井上靖の自伝的映画『わが母の記』を見て、井上靖の「ファミリーヒストリー」を書きながら、ほとんど他人に話したことのない私の「ファミリーヒストリー」に少し似ているのを感じた。 以前、私の祖母も芸者だった<小人閑居日記 2016.8.22.>に、こう書いていた。

 野口冨士男の『風の系譜』(講談社文芸文庫)を読んで、とりわけ心に沁みるところがあったのには、私の個人的事情があった。 <小人閑居日記>にいろいろなことを書いてきたが、私小説家ではないので、今まで書いたことはなかった。 他人に話したこともなかった。 後期高齢者となり、いつ死ぬかもわからない、書いておいてもよいか、と思ったのである。

両親はほとんどその話をしなかったのだが、母方の祖母は名古屋で芸者だったようで、ごく若い時に静岡のMという眼科医に落籍されて、妾となり、私の母とその弟妹を生んだ。 祖父にあたる医者は割合若く死んでいて、私はアルバムの写真しか見ていない。 祖母は私が生れた時には、もう中延のわが家にいて、両親が所帯を持った時、ご近所の人は若かった祖母を「奥さん」だと思ったということだった。 戦争中の空襲の時も一緒に逃げたし、「お祖母ちゃん子」と言ってもいいほど可愛がってもらった。 小学校に入る前だろうか、5歳上の兄がハーモニカを吹いているのがうらやましく、兄と取り合いの喧嘩をし、欲しがったのだが、両親はまだ無理だと言う。 駄々をこねていると、祖母がおもちゃ屋に連れて行って、買ってくれた。 当然のことに、ハーモニカはうまく吹けなかったが…。

祖母は、一時期の数年間、母の弟である叔父の家族の面倒をみるために、わが家を離れていたことはあったけれど、私が結婚して中延を出るまで、一緒に暮していた。

広尾に越し、有栖川公園の東京都中央図書館で、たまたま人名事典を調べたら、祖父と曾祖父が出ていた。 けっこうよく書かれていたので、少し嬉しい気がした。 曾祖父は天保11(1840)年生れ、何と横浜でヘボンに西洋医術を学んでいた。 偶然、兄も私も弟も、ヘボンの創立した明治学院に通ったのだった。 横須賀、川崎、清水、掛川、浜松、沼津、吉原などに分院や出張所を設け、静岡を内外科を併設した医院にしたりして、「人となり仁恕謹厚にして、眼科の治療に終生を捧げ」、大正3(1914)年に75歳で亡くなっている。

祖父は、その長男で明治8(1875)年生れ、東京帝国大学に学び、眼科を専攻、同校助手となり、附属病院に勤務した。 父業を継ぎ、眼科研究のため欧州遊学の途に上り、ドイツ、オーストリーの大学や英、仏の医科大学を視察して、療法施設の実況を学んだ。 「医術衛生に関する社会事業に盡すところ多く」「公益のために献身するところ頗る多大」だったとある。 大正10(1921)年9月に、47歳の若さで亡くなっている。

祖母や父母はもちろん、兄も死んで、そういう話を聞ける人が、身近にいなくなった。 今年1月、年賀状のやりとりから、久しく会わなかった従兄弟、母方の叔父の息子二人と会う機会があった。 姓は祖母の生まれた家のそれだ。 一時期、祖母が面倒をみに行っていた一家で、兄の方が自分は「お祖母ちゃん子」だからと言い、少し年下だが、私の知らないことも調べたりして知っていた。 岐阜の提灯製造の家に生れた(明治29(1896)年か)祖母は、独立心が強く、美しいのも自慢だったらしく、名古屋に出て芸者になった。 落籍されて岡崎へ、叔父は静岡で生まれた。 祖母は、祖父が亡くなった後、二度結婚している、という。

昭和40年代に入って、母にもう一人の妹が桑名にいることがわかって、その叔母の一家との交流が始まった。 昭和53(1978)年5月に母が死に、祖母は最晩年をその叔母の世話になって、同じ年の12月に亡くなったのだった。

コメント

_ 福島一生 ― 2021/11/19 19:59

ご無沙汰しております。福島一生です。
私は夏目漱石の事が何時も気になってます。
有名な井上眼科で漱石が見染めた、〇〇髪の女性が
コーちゃんのおばぁちゃん、だったのでは??
と勝手に愉しい想像してます。
母上様は子供心に、上品な美しい顔を想い出します。
おばぁちゃまは、一層魅力溢れる女性だったのでしょう。
私も貴家でお目にかかった気がします。
私の叔母で牛込で赤坂芸者相手に、髪結いでした。
江戸っ子気質の叔母とは、何故か私は馬が会いました。
子供のいない叔母は一時、私の父を養子(7才?)しましたが、
約束の運転免許を取らせて呉れそうもなく、床屋に
されるらしいのを察して、一年位で逃げ帰ったとの事です。
私の大好きな、カナダの天才ピアニスト、グレングールドの愛読書が
漱石の草枕だったのを、知った時は本当に、ビックリでした。
〇〇髪の女性の詳しい内容は、忘れてしまったので、調べて分かりましたら
追ってメールします。
取り急ぎご無沙汰と感想のお知らせです。
福島一生

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