堀川恵子著『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』2022/03/03 07:09

 戦没した船と海員や、日本軍の兵站・ロジスティックスの問題に関心のあった私は、昨年8月28日の朝日新聞朝刊読書欄の「著者に会いたい」で、ノンフィクション作家堀川恵子さん(51)と、その著書『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社)のことを読んだ。

 見出しは、「発掘した史実が語る重さ」。 福田宏樹記者は、「読ませる技術もさることながら、一行一行を膨大な文献の渉猟と綿密な取材が支えている」と始める。 広島市の宇品には、かつて「暁部隊」と呼ばれた陸軍船舶司令部が置かれ、軍事の要諦である兵站を担っていた。 旧日本軍最大の輸送基地・宇品には、この国の過去と未来が凝縮されていた。 堀川恵子さんは、知られざる史料を発掘して、海軍でなく陸軍が船舶輸送を担う意外な経緯を、本書で詳しく記述したという。

 「船舶の神」田尻昌次司令官や技師の市原健蔵ら魅力的な人物の群像劇が周到にして生き生きと描かれる。 戦時、日本は「ナントカナル」で突き進んだ。 輸送の死活的重要性を熟知し、先を危ぶむ田尻の声は届かず、直言すれば待っていたのは更迭である。 耳に心地よい情報が上に集まり、さしたる吟味もなく判断が下され、あげく国は破滅に向かう。 昔の話と思えないのは、臨場感あふれる筆致のせいばかりではない、と福田宏樹記者は書く。

 宇品の主要任務は特攻に転じた。 「小さなベニヤ板の特攻艇で出撃した」若者たち。 その特攻艇のことは、当日記にも、「三浦半島」の海軍水上特攻隊基地<小人閑居日記 2021.1.11>、城山三郎さんと水中特攻部隊「伏龍」<小人閑居日記 2021.1.12>で書いた。

 初の原爆はなぜ広島に投下されたか。 その疑問に始まる物語は巻を措く能わずであると同時に、読後に残されるものがあまりに重い、という。 私は、この記事を切り抜いてはいたが、本を手に取るまでは行かなかった。