スタビンズくん、ドリトル先生の記録係となる2022/04/20 07:05

 「ヒュー・ロフティングに捧げる」「福岡伸一の新・ドリトル先生物語『ドリトル先生 ガラパゴスを救う』は、ドリトル先生が助手のスタビンズくんに、記憶と資料を整理するために、この箱を開けて、ガラパゴスで起きたことを克明に記録しておきたいと思っている、と始まる。 その記録が今、明らかになると、いろいろ支障が出る者や逆襲に出る者がいるに違いない、それにもましてガラパゴスのすばらしい自然と生き物たちが再び危機にさらされる可能性がある。 だから、50年先まで、この記録は決して明かしてはならない。 ドリトル先生はもうこの世界に生きてはいないと思うので、50年間の封印とその後の公開を、スタビンズくん、きみに託したいと思うのだ、と言う。

 トミー・スタビンズは、父が靴職人で、学校へ行っていなかった。 ドリトル先生にひと目会ったときから、自分が求めていたのは、こういう人だとわかった。 字を書くことも読むこともできないけれど、ドリトル先生のようなナチュラリストになれるかと聞くと、「もちろんなれるよ」「きみが今、好きなことをずっと好きであり続けさえすればね」と言った。 読み書きと算数から始め、ある程度できるようになると、記録係を命じられた。  ドリトル先生がいろいろなものに書きつけた膨大なメモがあった。 中には、葉っぱの裏側や、蝶の翅、平たい石などに鉛筆で走り書きされたものも、多数まじっていた。 整理しようと思ううちに、また新しい出来事が次々に起こるものだから、どんどんメモが増えてしまう。

 ドリトル先生のもっとも尊敬するナチュラリスト、かのレオナルド・ダ・ヴィンチも、たくさんのアイデアやスケッチや空想やら――ときにはお金の計算やら愚痴みたいなことまで――、事細かくメモに残していた。 彼は、この世界のあらゆるものの細部に目を凝らし、耳を澄ませ、手触りを確かめようとした。 そして、たえず動いているもの、水の流れや、鳥の飛翔や、空気の振動を、描き留めようとした。 いや、彼は類いまれなる描画能力で万物の動きを紙の上に再現した。 それはコーデックスと呼ばれ、ダ・ヴィンチの思想を知る重要な資料になっている。 コーデックスは、5千枚以上あるそうだ。

 ドリトル先生はスタビンズくんに、いろいろな旅の断片的な資料や走り書きを、自分の記憶が確かなうちに、きちんと整理しておきたい、それを手伝うドリトル・コーデックスの記録係になってもらいたいと頼む。 スタビンズくんにとって、こんな光栄なことはなく、そのうえドリトル先生の数々の冒険や探検旅行を追体験できるのだった。