気がつくと一人、解決の糸口を考える2022/04/24 06:31

 スタビンズくんが正気を取り戻したのは、どのくらいあとのことだったか。 ゴンドラのかごの中に倒れており、腰に巻いたロープのおかげで、放り出されずすんだのだった。 気球はなくなり、ゴンドラは斜めになって、ジャングルの木の高い所に引っかかっていた。 ドリトル先生も、オウムのポリネシアもいなかった。

 なんとか木から降りて、ドリトル先生から、どんなときでも、どんなことにも、かならず解決の糸口というものがある、それを落ち着いて考えるのだ、と教わっていたことを実行した。 まず、よきことをリストアップしなさい。 それからすべきことを優先順位の高いほうから書き出すのだ。 <よきこと>・まだ生きている ・怪我もしていない ・ここは暑くも寒くもない ・お腹に抱えていたリュックにノート、筆記用具、実験器具、捕虫網、水筒、非常食、タオル、ロープがある ・希望(ドリトル先生もきっとどこかで生きている)。 <すべきこと>・水と食料の確保 ・ここがどこか確かめる ・ドリトル先生を捜し出す ・誰か助けてくれる人を探す ・人の住んでいる場所にたどり着く。

 それからゴンドラの引っ掛かった木を中心に、地図作りを進めた。 目印となる木や石を書き込み、東西南北それぞれ数百メートルを調べてみた。 低いところに行ったほうが、水があり、人がいるかもしれないと思って、南に向かうことにした。 鳥に話しかけてみたが、イギリスで通じる公用語だと思っていた言葉が通じなかった。 でも鳥の集まる茂みで、彼らが食べている野イチゴを見つけ、水分と糖分を補給することができた。

 野イチゴのおかげで元気になり、先に進むと、さしわたし30センチはありそうな蛾に出会った。 ドリトル先生の書斎にある図鑑にあったアマゾン川の上流に棲むナンベイオオイヤガの仲間らしい。 この蛾は匂いに敏感で、メスはオスにしかわからない誘引物質を身体から発し、オスは何キロも先で察知できる。 ドリトル先生が同じことを考えたとすると、ポリネシアに言って、メスを生け捕りにして、自分のシルクハットの中にでも入れておくに違いない、と思った。 先ほどからあたりを飛んでいる蛾が、明るい色のオスなので、その蛾を追いかけてみることにした。 日が陰ってきたので、捕虫網で蛾を捕まえ、一晩安全そうなところで寝た。

 奇妙な音に目を覚ますと、大きな丸い甲羅をもった体長1メートルはある大きなゾウガメがいた。 スタビンズくんが話せるのは、英語のほか片言の犬語とブタ語、鳥の公用語ぐらいだ。 最後にダメ元の鳥の公用語で、「カメさん、こんにちは」と言ってみた。 「こ・ん・に・ち・は」、ゾウガメは息の響きを使って、鳥語を話したのだ。 ゾウガメと意思疎通を図れるのは、感激だった。 ここはエクアドルの森の中で、ドリトル先生の名前は知っていたが、見かけていないという。 ゾウガメは、ジョージという名前だった。