フロリアン大統領、ガラパゴス諸島領有宣言に調印2022/05/02 07:01

 この時どうしてゾウガメのジョージがお腹の中に、アタワルパの〝涙〟を持っていたのか。 ご想像のとおり、ネズミのルビイとオパアルが、宝物室から持ち出したものだった。 コオイムシのメスがオスの背中に卵を産み付ける分泌液を接着剤として使い、宝物室の天井からそろそろとおろした絹糸の先に真珠をくっつけて、引き上げていた。 しかし、あと少しのところで、小箱に入れてあったコオイムシが逃げ出そうとしたために、ルビイが糸を強く引きすぎて、真珠が糸から離れ落下し始める。 万一に備えて、部屋の天井の隅に逆さまにとまっていたコウモリが、ひらりと飛んで、放物線を描いて空中を舞っていく真珠の軌跡を正確に読み取り、真珠をキャッチ、ふわりとルビイとオパアルの横の梁の上に着地した。

 ルビイには、もうひとつ、大きなミッションがあった。 ホンモノをお借りする代わりに、模造品のアタワルパの〝涙〟を、何食わぬ顔で台座の上に戻しておく、という作業だ。 ドリトル先生は、あらかじめ模造品のアタワルパの〝涙〟にコオイムシの分泌液で糸をつけておいた。 そして、糸を回収するために、コオイムシの酵素を使った。 コオイムシの卵が孵るとオスの背中がきれいになるのは、卵の殻の底に含まれている酵素が、接着剤のたんぱく質を分解するからだ。 ドリトル先生は、模造品に取りつけた絹糸に薄くゴムを引いておいた。 ルビイは酵素液を入れた小瓶から、スポイトで糸の上にしずくをつくり、糸をやさしくトントンたたくと、しずくはツ、ツ、ツ、ツと、下に向かって移動して、模造品の表面に達したのだった。

 さて、フロリアン大統領は、署名の横に大統領印をしっかり捺して宣言文書を完成させると、両手でドリトル先生の手をしっかり握り、感謝の言葉を述べた。 ドリトル先生は、こちらこそ、大統領の大英断で、ガラパゴスの貴重な自然が守られることになった、と喜んだ。 ところで、大統領、真珠は、このゾウガメ、ジョージのものですから、いったんこちらにお戻しを、と言うやいなや、机の上の真珠に手を伸ばして、それをつかむと、ジョージの顔の前に差し出した。 するとジョージは真珠をパクリとくわえて、ひとのみにしてしまった。

 呆然とする大統領とロドリゲス。 ドリトル先生は、言う。 大丈夫、わたしが頼めば、ジョージはいつでもお腹の中から真珠を取り出してくれる。 それにガラパゴスに行けば、こんな真珠はそれこそ星の数ほど、正確に言えばゾウガメの数だけある。 しかし、ここがもっとも大切なところだが、もしジョージの身に万一のことがあれば、あるいはガラパゴス諸島の未来が脅かされるようなことが少しでもあれば、真珠は溶かされて永遠に失われてしまう。 そのことをどうぞお忘れなく。 クイド・プロ・クオだ。 宣言文1通は証拠品としていただいておく。 宣言は、翌1832年2月12日になされた。

 スタビンズくんは、ネズミのルビイとオパアル、コウモリのチームを再招集して、この前と全く同じことを逆の手順でやって、アタワルパの〝涙〟を宝物室に戻すことにした。

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