「漸草庵 百代の過客」のエゴノキ ― 2022/07/07 06:54
百代橋の下をくぐる道は、綾瀬川を松原大橋を渡り、草加市文化会館の右手川沿いに、ドナルド・キーンさんが命名したという「漸草庵 百代の過客(ぜんそうあん はくたいのかかく)」という茶室四間とお休み処の数寄屋建築があった。 外に樽型の牢屋のようにも見える小さな茶室もある。 百代橋には「ひゃくたいばし」とあり、ここは「はくたい」、キーンさんが正しいのだろう。 「漸草」の意味を草加市のホームページなどで探したが、わからなかった。 漢和辞典の「漸」の意味は、(1)ようやく。だんだん。次第に。(2)進む。次第に進む。じわじわ進む。(3)易の一つ、順を追って進む象(かたち)。(4)きざし。(5)通す。通ずる。(6)のびる。成長する。(7)順序。段階。 「〝草〟加市が次第にのびる、成長する」という意味だろうか。
漸草庵の庭に実をたくさんつけている「エゴノキ(えごの木)」があった。 岡部さんが「チシャ」とも言うと教えてくれた。 「チシャ」はキャベツだとも言うから、それは「レタス」だろうと、私が言った。 落語の「夏の医者」で知っていたからだ。 暑い夏の盛り、無医村カシマ村のタゼエモンが倒れて、息子が隣村の一本松にゲンパクロウという医者を迎えに行く。 山越えの途中で、息子と医者がウワバミに呑まれてしまうが、医者は薬籠の下剤ダイオウの粉を撒いて、脱出する。 タゼエモンを診て、チシャ(今風に言えばレタス)の胡麻よごしの食べ過ぎの、ものあたりだと診断するが、薬籠をウワバミの腹の中に忘れて来ていた。 気丈な医者は、もう一度、ウワバミに呑まれに行く。 ウワバミは、大木にひっかかった形で、げんなりしていた。 医者が事情を話して、交渉するが、ウワバミは「もうダメだよ、夏の医者は、腹に障る」。
なお、「えごの木」が「チシャ」だという件だが、「エゴノキ」で検索したら、エゴノキ科の落葉小高木、初夏、白色の小さな花をたくさん咲かせ、それが実になる、「エゴ」は実を口に入れると「えぐい」から来ており、別名チシャノキ、チサノキ、歌舞伎の「伽羅先代萩」に登場する「ちさの木(萵苣の木)」はこれだとあった。 一方、レタスの「チシャ(萵苣)」はヨーロッパ原産のキク科の野菜、韓国料理ではサンチュと呼ぶ。 同じ名でまぎらわしいが、木とは別物だ。 なお、キク科、植物の科としては最大で、一年草から大高木まであるというから、キク科だから草というわけではない。
近くに、正岡子規の句碑<梅を見て野を見て行きぬ草加まで>があった。 実際には見なかったが、近辺に高浜虚子の句碑<巡礼や草加あたりを帰る雁>、水原秋桜子の句碑<草紅葉草加煎餅を干しにけり>や<畦塗りが草加の町をかこみける>があるそうで、所々に松山市のような「投句箱」があった。 これらの俳句は、都会化、さらには長靴必須以前の、地域の景色と歴史を歴然と示していた。
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