杉本博司さんの「江之浦測候所」<等々力短信 第1157号 2022(令和4).7.25.>2022/07/18 07:01

 杉本博司さんをご存知だろうか。 私は知らなかった。 岩波書店の『図書』が1月号から表紙に杉本博司さんの「portraits/ポートレート」を使っている。 現代美術作家の杉本博司さんは、虚実の関係を鮮烈な手法であぶり出す写真作品で世界的に活躍している方だという。 2年間24回のシリーズは、シェイクスピア、オスカー・ワイルド、そしてヘンリー8世とその6人の妻たちへと続いている。 杉本さんの簡潔、明快な解説により、私はイギリス王室のおどろおどろしい歴史を知ることになった。

 杉本博司さんは1948(昭和23)年2月の東京御徒町生まれ、立教大学経済学部を出て、ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学んだ。 ニューヨークにスタジオを設け、最初のシリーズ「ジオラマ」の一枚がニューヨーク近代美術館の買い上げとなり、各種の奨学金を得、その後日本の古美術品や民芸品を売る店「MINGEI」を10年ほど続け、ニューヨークと日本を往復、「ジオラマ」以降の「海景」「劇場」「ポートレート」「陰翳礼讃」「建築」などのシリーズを発表、世界各地のギャラリーや美術館で個展が開かれ、受賞するなど、高い評価を受けているという。

 7月10日の『日曜美術館』は「杉本博司 江之浦測候所奇譚」だった。 小野正嗣さんが、杉本さんの案内で、小田原市にある2017年竣工の巨大アート施設を巡った。 杉本さんは子供の頃、東海道線で熱海から小田原へ向かう列車が眼鏡トンネル(私も子供の頃、毎夏沼津の三津浜へ行き「穴の開いたトンネル」と言っていた。)を抜けると、目の醒めるような水平線を持った大海原が広がっているのが、人としての最初の記憶だという。 その時、「私がいる」と気がついた。 何ものかに導かれるように、その地の蜜柑畑を手に入れて、「小田原文化財団」を設立し、構想10年建設10年。

 コンセプトは、こうだ。 悠久の昔、古代人が意識を持ってまずした事は、天空のうちにある自身の場を確認する作業だった。 そしてそれがアートの起源でもあった。 新たなる命が再生される冬至、重要な折り返し点である夏至、通過点である春分と秋分。 天空を測候する事に、立ち戻ってみると、かすかな未来へ通ずる糸口が開いている。

 入口を入ると、細長い通路、右は大谷石の壁に杉本作品が並び、左は開放的な全面ガラスの、夏至光100メートル遥拝ギャラリーがある。 夏至の朝には、太陽光線が真っすぐに貫く。 先端は空中に突き抜け、海景につながる。 その下には70メートルの細長い鉄の箱、冬至光遥拝隧道が交わっている。 古代~近代の建築遺構から収集された考古遺産の石群、春分と秋分を示す三角石、能もできる石舞台、茶室、3月には春日大社から朱塗りの神社に神霊も招いた。 世界に日本文化を発信している。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック