柳家さん喬の「鴻池の犬」前半2022/10/08 07:16

 さん喬は、東京駅新幹線ホームの立ち食い蕎麦が9月30日になくなったと始めた。 昔は京都が都で、東下りといい、江戸からの品は「下らない」と言った。 前座の頃、名古屋は日帰り圏ではなかった、と。 なお、さん喬の「鴻池の犬」は、2009年11月26日の、第497回落語研究会で聴いていた(<小人閑居日記 2009. 12.4.>)。

 貞吉、いつまで寝ているんだよ、早く店を開けなさい。 旦那、大変です、捨て子です、三匹も。 犬です、白、黒、ブチ、かわいいな。 捨てて来なさい。 ウチで飼いましょうよ。 ウチは乾物屋だよ。 私が面倒見ます。 餌は、私のを……、私は旦那のを。 私は? 旦那は我慢するんです。 しかたがないな、欲しい人がいたら差し上げるから。 貞吉は三匹の面倒を見て、特に黒を可愛がった。 可愛い犬がいて、店が繁昌するようなことになる。

 ごめん下さい。 黒いお犬様は、こちらのお犬様ですか? 黒いお犬様を頂きたい。 はい、面倒をみている小僧には、私が因果を含めておきますから。 改めて、頂きに参ります。 黒を欲しいという方が現れた。 約束だ、差し上げるよ。

 紋付き袴、扇子を持った先日の人、些少ですがとお椀代、角樽一つ、酒の切手、反物を持ってやって来る。 角屋の主人が、ちょっと、お待ちなさい、犬をやるのにそれは貰えない、持って帰ってくれと、断わる。 言葉が少なくて申し訳ない、私は大坂船場、鴻池善右衛門の江戸の出店の差配で六兵衛と申します。 坊ちゃまの黒犬が近所の火事で死に、似たのはイヤ、焼けた犬でなければと、言う事を聞かない、首に月の輪の差し毛がある黒犬でなければ駄目なのです。 そういうことならわかりました、反物だけ頂いて、小僧が一番出世の時に仕立ててやります。 黒は友禅の座布団の上に座り、駕籠に乗せられて、大坂へ行った。

 若ぼんは、黒が戻ったと大喜び。 二人の警備に、医者もつき、ぶっくぶくの大きな犬に育つ。 もともと江戸の犬で、気っぷがいい、船場界隈で犬のもめ事があると仲裁を頼まれるようになった。

一方、江戸の弟、白とブチは、小僧の世話が間遠になり、餌ももらえず、表で餌探しに行く。 往来に芋が転がっていたのを、弟のために拾ってやろうとしたブチが「キャーン」、大八車に撥ねられて死ぬ。 「ブチ兄ちゃん…」、白一匹になってしまった。 餌もくれない、拾い食いで毛も抜けて、哀れな姿、そうだ、大坂の兄ちゃんの所へ行こう。 月が煌々として、これから大坂だ、飛脚でも足の速い方だが、十日かかる、と話していた。 あの人に、付いて行こう。 エイホー、エイホー、エイホー…、速いなあ、行っちまった。 それではと、旅人の後を付いて行く。 お嬢さんが、餌をあげよう、白い犬は毛が抜けると、人間になるというから。 落語の聞き過ぎですよ、あっちへお行き。 キャン。