熟考して反応する認知システム ― 2022/10/12 07:09
去年の9月、「山口真一のメディア私評」というコラム(朝日新聞朝刊に、月に一度か出る)を読んで、情報革命・ネット社会は、まだ黎明期<小人閑居日記 2021.9.23.>、フェイクニュース、自信がある人ほど騙される<小人閑居日記 2021.9.24.>を書いた。 その時、「ときどきお会いする人で、かなり極端な意見をお持ちの人が二人いる。 どうもSNSからの情報らしい。 一人は新聞を読まず、テレビもほとんど見ないという。 それもおそらく、ごく限られたソースだけを見ているようだ。」と、書き始めた。 そのお一人は、ついに東京で生活していくのが困難と判断して、自給自足の生活を目指して中国山地に一家で疎開することにした。 コロナ禍で経営していた仕事が行き詰まり、「金融危機、預金封鎖」「食料危機」「石油危機」「これからの世の中は80年周期の動乱の時代になると予想される。支配者側が20~30年かけてシナリオを作り、世界人口の半分の削減、富の収奪を企てている」と、言うのである。
『デジタル空間とどう向き合うか』鳥海不二夫、山本龍彦著(日経プレミアムシリーズ)という本の書評が9月24日の朝日新聞読書欄にあった。 評者は、宮地ゆう朝日新聞GLOBE副編集長。 その中に、こうあった。 「人間には二つの認知システムがあるという。一つは深く考えずに反射的に反応するもので、二つ目は熟考して反応するシステムだ。人間を理想的な存在にしているのは、二つ目があるからだ。デジタル空間では、もっぱら一つ目の反応が利用される。脳に刺激の多い情報やデマ、陰謀論などの前に、二つ目の認知システムはまともに機能しない。どうすればいいのか。」「……合理的な判断を支援する支援する仕組みや環境を、社会的に構築するべきだという。」「本の中で使われる食べ物のたとえがわかりやすい。体に良くないとわかっていても、ジャンクフードに手を出すのが人間だ。刺激の多い情報を見るなというのではなく、食品の栄養成分表示のように、情報の出どころや正確性などの「成分表示」をし、時には「偏食」を知らせるなど、様々な方策が提案されている。」
9月9日の、「山口真一のメディア私評」は、「陰謀論を信じる理由 「賢い自分」アピールSNSで簡単に」だった。 山口さんが、日本在住の1万9989人を対象に行った調査でも、少なからぬ人が陰謀論を信じていることが明らかになっているそうだ。 この調査でも、「コロナワクチンは人口減少をもくろんだものだ」という実在する陰謀論を使って人々の行動を分析した。 「プランデミック(計画されたパンデミック)」といわれる言説であり、世界中で広まっている。 調査の結果、この陰謀論を知っている人は全体の4・2%であり、そのうち11・1%の人が情報を信じ、31・4%の人が正しいかどうか分からないと回答した。 このデマを知った人の中で、少なくない割合の人が、誤っていると気づいていなかったのだ、という。
山口さんは、人がこのような陰謀論を信じてしまう背景には、人々の「優越感の欲求」が存在するとする。 つまり、「他の人が持っていない情報を自分は持ち、真実を知っている」と考えたり、それをアピールしたりすることが、気持よいのである。 こういう欲求自体は誰もが持っているものであるが、その欲求が強すぎると、陰謀論にのめりこんでしまうのだ。 しかもこの優越感の欲求は、SNSが普及したことにより、以前よりはるかに満たしやすくなっている。 情報の拡散速度が上がり、情報があふれる社会になったことで、「誰も気づいていない」とうたわれるセンセーショナルな情報に出会いやすくなった。 そうしてつかんだ情報をSNSで発信することで、簡単に「賢い自分」をアピールできるようになった。 情報の受信・発信双方の面で、優越感の欲求を簡単に満たしやすくなったのである、というのだ。
毎日ブログを書き、ツイッター(馬場紘二 @goteikb1)でブログに書いたとツイートしたりしている私は、深く考え込んだのであった。 大仰に言えば馬場紘二になるまで81年もかかっているのだけれど、「よしのずいから天井のぞく」「井の中の蛙大海を知らず」という諺も思い出したのであった。
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