「シンデレラはみな死んだ、失意の内に」 ― 2022/10/15 07:09
ヘンリー八世は、50歳を越えて、昔日の面影はなく、巨漢と言えるほど太ってしまった。 王妃のなり手はなく、貴族たちは自分の娘が処女であるか確信が持てなかった。 もし処女でないことがあとから露見すれば、それは一族の滅亡を意味する。 そこで処女である心配のないラティマー卿未亡人キャサリン・パーに白羽の矢が立った。 今や王が必要としたのは、床のそばに付き添う優しい看護婦だった。
キャサリン・パーは迷った。 彼女には思いを寄せるトマス・シーモアという愛人がいたからだ。 キャサリンは愛と義務との板挟みになり、義務を選ばざるをえなかった。 彼女は王の晩年の三年半身を尽くして王の最期を看取った。 そしてその年の内に、念願を叶えてトマス・シーモアと四度目の結婚をする。 しかしまたしても幸せは続かなかった。 35歳で妊娠、それも初産、結婚して15か月後、女の子を産んで、6日後に産褥熱で死んでしまう。
杉本博司さんは、ヘンリー八世と六人の王妃の物語を閉じるに当たって、こういう教訓を残している。 「シンデレラ願望をお持ちの淑女の皆様、たとえ白馬に乗った王子様が現れたとしても、ヘンリー王と六人の妻達の話を思い出してほしい。幸せはガラスの靴のように壊れやすい、そしてシンデレラはみな死んだということを。それも失意のうちに。運命は皮肉だ。末長く幸せに暮らしましたとさ、という御伽噺の結末は、しょせん御伽噺なのだ。文学と同じように。」
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