古今亭志ん輔の「安兵衛狐」2022/12/11 07:45

 長屋は長屋、似たもん同士、ないものは貸す、連帯感があった。 ただ、そこに入って来ない人間もいて、うとましく思われる。 六軒長屋で四軒はいい、あと二軒が変人、グズ安に、ヘンクツ源兵衛、二人は仲がいい。 古今亭右朝と川柳川柳師匠は、仲が良かった、二人とも酒飲み。 二人と居酒屋で一緒になって慌てて逃げ出した、あいつらは関わらない方がいい、最後は大喧嘩になる。

 亀戸に萩を見に行かないか、男四人だよ、あの二人も誘ったほうがよくないか。 源兵衛は、行かないよ、面白いものがある、と。 一人で、墓を見に行く、一杯やるとたまらない、萩、見たかったなあ、逆らわないと駄目なんだ。 谷中の天王寺、いい女の子と飲みたい、女の墓を探す、享年96、駄目だ、インクウ信女23、これに決めた。 一杯付き合ってくれ、ちょいといきましょう、23、いいのがいたよ、やけるね、♪テテトンテテトン、好きなお方のお墓の前で、いろいろ話がしてみたい。 墓の後ろで、ガタッ! 骨が出てるよ、墓の掘り賃をけちったんだよ、まとめて土をかけ、酒をかけてやろう。

 家に帰って、横になる。 夜になったとたん、ここを開けていただきたい、と、いい女。 さっき世話になった者で、おそばに置いていただきたい。 インクウ信女さんかい。 一杯やって、キューッ、一緒になるか…。 幽霊だから、朝になるといなくなる。 男にとって、理想のタイプだ。 おゆうよ、俺みたいのでいいのかい、とヘンクツ源兵衛。

 気に入らないのは、グズ安の安兵衛。 何者なんだ、嫌われもん同士じゃないか、世帯持ったら、教えないか。 幽霊なの。 じゃあ、俺もと、天王寺にやって来た。 いい女の墓は、どこだ。 シィーッ、狐つりだよ、皮剝いで売る仕事だ。 可哀想じゃないか。 ほら、捕まえた、高く売れる。 逃がしてやんな。 仕事だよ。 俺が買う、一円で。 三円になるが、可哀想だというから一円でいいや。 気を付けて行くんだよ。 狐、振り返り、振り返りして行く。

 家に帰って横になると、とたんに、今晩は! ここを開けて下さい、さっき助けていただいた者で。 狐かい。 コン。 一杯やるか。 喜んで。 夫婦になろうか。 ハイ。 変な夫婦が二組出来た。

 みんな正直なだけ、言いたいことを言う。 井戸掘りのガンさんは、おっ母さんがいなくなった、鍛冶屋の鉄さんは博打で穴開けて、おかみさんを女郎に売った、みんないろいろある。 ヘンクツ源兵衛とグズ安にかみさんが来て、他の四人が面白くない。 あの二人にかみさんが来るなんて、おかしい。 源兵衛のとこの、おゆうさんは、昼間いねえ、夕刻になると米を研ぐ、足元をみると、あるようなないような、コレじゃないのか。 安兵衛のとこのおこんさん、きれいだ、目がつり上がっていて、耳がとんがっている。 みんなで、行こう。

 お揃いで、何か? おゆうさん、何で働いているのか、朝は豆腐屋、昼は煮売屋。 気を遣うから、言わない。 おこんさんは、目がつり上がっていて、耳がとんがっている。 二人は、逃げてしまった。

 鉄、どうしたい。 みんなで行ったんだ。 おこんは、どうした? えっ、逃げちまった。 狐だ、のど、搔き切られて、死ぬよ。 狐で悪いかい。 騙されてないよ、あのおこんと、おゆうは、おっ母さんや女郎を助けようと、一生懸命働いているんだ。

 後日、王子稲荷に、夜鷹(?)とよく流行る煮売屋ができた、安兵衛狐の一席で。